変転するガチ中華 2025年は「経営・管理ビザ」と脱ウィチャット情報圏がカギ
ウィチャット情報圏に閉じこもる
次に(2)「中国の少数民族料理と香港・台湾の店が増えている」についてだが、ここ数年、ガチ中華の新たな料理ジャンルとしてよく目につくのが、新疆ウイグル料理や内モンゴル料理、延辺朝鮮料理など、いわゆる中国の少数民族たちの料理店だ。また、もともと日本人に愛好されていた香港や台湾の料理店も続々出店されている。 なぜこれらのジャンルの店が増えているのか。次のような3つの理由が考えられる。 まず日本人の旅行先として人気の韓国、台湾、香港や同じ食文化圏の広東など、現地で体験した味に親しむ人が多数いることだ。最近の若い女性の四川料理のマーラータン人気も、韓国で先に流行し、旅行を通じて知ったものだと言われているし、延辺朝鮮料理は韓国の地方料理の1つと言っていい。 さらに、モンゴルやウイグルなどのエキゾチックな味わいに魅了される人が多いことも挙げられる。彼らの料理は中華文化圏出自ではなく、今日、主流のガチ中華の刺激の強い味が好みではない人でも受け入れやすいところがある。 そして、これが最も重要な観点だと筆者は考えているのだが、少数民族たちは中国在住時、マイノリティな存在としてメイン民族である漢族の社会に合わせて商売してきたので、来日しても、日本の商習慣に合わせるのを苦にしないことだ。 この点が、実はこれまで同胞相手に限った商売しかしてこなかったガチ中華オーナーや、最近来日したばかりの“潤”店主にとっての課題と言えるだろう。なぜなら、彼らは現状、日本人の客を取り込めておらず、日本社会に溶け込むこともできていないからだ。 彼らに共通する特徴として、ウィチャット情報圏のなかに閉じこもり、日本人の客相手のサービスやマーケティング、宣伝ができていないことがある。 ここでいうウィチャット情報圏とは、中国のSNS「微信(ウィチャット)」でつながる在日中国人社会の情報コミュニティ空間を指す。このような情報コミュニティは、海外で暮らす外国人にとってはなくてはならないツールになっている。 とりわけ独自のSNS文化を発展させた中国のウィチャットにはさまざまな便利な機能があり、在日同胞同士がSNSグループをつくることで、特定のガチ中華や中華食材店のデリバリーサービスを積極的に活用している。彼らは日本にいながら、中国にいるのと同じような便利な食環境を手に入れているのだ。 都心から離れた郊外の住宅地(そこには中国籍の人たちはほとんど住んでいない)にある中華食材店が、来店客がなくても商売ができているのはそのためだ。店主に聞くとSNSグループの予約客から注文を受けた商品を車で配送するのが仕事だという。 以前は筆者もこうしたそつのない商売に舌を巻いていたが、いまとなっては彼らがウィチャット情報圏に頼り切ることに否定的だ。なぜなら中国のSNSは中国籍と一部の中国と縁のある日本人しか使っていないため、日本人向けの商売にはほぼ使えないからである。