[深層一直線]与野党の「壁」 克服か分断か…右松健太
米国にみる対極の形
長い夏が過ぎ、ようやく秋の訪れを感じるようになってきた。山あいの行楽地から紅葉のたよりも届く。私も11月上旬の週末、穏やかな秋の陽気に誘われて、近くの公園までのジョギングを再開した。
小学生の頃、学校から帰ると、ランドセルを放り投げ、グローブと軟式ボールを持って公園に走った。
赤く染まる秋空――。仲間たちと夕暮れまで白球を追いかけ、家に帰れば、そのまま家の壁が練習相手になった。遠くの空に日が沈んでも、街灯の明かりをたよりに白いチョークで描いた壁の的をめがけて、壁当てをしていた。鈴虫の音に交じり「晩ご飯ができたわよ」と呼びかける母の声が懐かしい。
そんなかつての野球少年の胸を躍らせたのは、今年、大きな「壁」を越えた米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の活躍である。前人未到の「50本塁打50盗塁」という壁を越え、ワールドシリーズ優勝という夢舞台に立った。大谷選手の「人生設計シート」のエピソードは有名だ。明確な目標を設定し、そのために“心技体”それぞれ、どのように「壁」を越えてゆくべきか自らに問い、努力を続け、ひとつひとつを実現していく姿には敬服する。
しかし、同じアメリカでも、政治では大きな「壁」が両者を分断している。米大統領選挙では、民主党、共和党、それぞれの支持者は、相手の主張に耳を傾けることなく、意見や価値観は対立している。5日、投開票が行われ、米主要メディアは共和党候補のドナルド・トランプ前大統領の勝利確実を伝えた。強硬な不法移民対策を主張しているトランプ氏は、南部の国境にさらなる「壁」の建設を進めるかもしれない。
永田町でもいま「壁」を巡る議論が活発だ。先月行われた総選挙では、自民党と公明党の連立与党は233議席を下回り、衆議院で過半数割れとなった。一方、議席を4倍に増やした国民民主党は、年収が103万円を超えると所得税が課される、いわゆる「103万円の壁」を見直すよう迫っている。他にも、社会保険料の負担が生じる「106万円の壁」と「130万円の壁」についても議論になりそうだ。インターネットのニュース検索で「壁」と入力すると、「年収の壁」に関する記事がずらりと並び、コメント欄に専門家や識者が解説を加える。政策には利点や課題はつきものだ。SNSでも賛否様々な立場で意見が交わされ、国民的な議論になっていることは意義深い。