IMF世界経済見通し:各国間格差が大きな問題:米国利下げ期待後退で金融市場混乱のリスク
米国の成長率見通しを上方修正
国際通貨基金(IMF)は4月16日に、世界経済見通しを公表した。前回(1月)から見通しは大きく変更されていないが、2024年の世界の成長率の予測値は+3.2%と、前回の+3.1%からわずかに上方修正された。上方修正の主な理由は、米国の成長率予測の上方修正だ。2024年の米国の成長率見通しは前回の+2.1%から+2.6%へと上方修正された。大幅な金融引き締めが実施されたにもかかわらず、米国経済は予想外に堅調を維持している。他方、ユーロ圏経済の2024年の見通しは前回から0.1%ポイント引き下げられ+0.8%となった。日本については+0.9%で変わらない。 2023年の成長率は+3.2%だったと推定されているが、2024年の成長率見通しは+3.2%、2025年の見通しも+3.2%と同じ成長率が続くことになる。この+3.2%という成長率は、現時点での世界の潜在成長率に近い水準と考えられる。一方、世界のインフレ率は2023年の+6.8%から、2024年には+5.9%、2025年には+4.5%へと鈍化を続ける見通しだ。こうした世界全体の成長率、インフレ率の予測値を見ると、世界経済が置かれた現状や先行きの見通しは非常に安定して良好であるように見える。
各国の経済環境の差に起因し金融政策姿勢に大きな差
しかし、各国の経済環境には大きな格差があり、これが金融市場の変動を通じて世界経済の成長の阻害要因になる可能性がある。 IMFは、各国の2024年のインフレギャップと需給ギャップを試算している。インフレギャップはインフレ率の予測値と中央銀行の目標値との差、需給ギャップは実質GDPの予測値と潜在GDPの予測値との差を計算したものだ。 これによると、米国とオーストラリアについては、需給ギャップもインフレギャップもプラスであり、引き締めバイアスの金融政策が求められる。他方、日本については、需給ギャップもインフレギャップも概ね中立的であり、中立的な金融政策が求められる。中国は需給ギャップ、インフレギャップともにマイナス、特にインフレギャップが大幅マイナスとなっており、緩和的な金融政策が求められる。そしてユーロ圏と英国では、需給ギャップはマイナス、インフレギャップはプラスとなっている。景気は弱いがインフレ率は高過ぎの状況であり、こうしたもと、どのような金融政策を行うか判断が難しい状況だ。 このような経済、物価環境の下、各国の金融政策の方向性にも大きなばらつきが出てきた。欧州中央銀行(ECB)は今年6月にも利下げに踏み切り、金融引き締めの程度を弱める調整を始める見込みだ。英国でも同様に早ければ6月に利下げに踏み切る可能性がある。他方、インフレ率の低下が鈍る米国では、利上げは先送りされる方向にある。中国は今後も追加の金融緩和を実施する方向だ。日本の金融政策は大幅な緩和を緩やかに解消していく方向にあり、世界の潮流とは大きく乖離して、早ければ年内にも追加の利上げを実施する可能性がある。