【番記者の視点】町田、昇格初年度で史上初の首位ターン 堂々たる前半戦で浮き彫りとなった“落とし穴”
◆明治安田J1リーグ▽第19節 町田0―0福岡(22日・町田GIONスタジアム) 【町田担当・金川誉】スコアレスドローで終えた福岡戦後、会見に臨んだ町田・黒田剛監督は、どこかいつもより淡々と試合を振り返っているように見えた。福岡の堅守を崩せなかったことを悔やみながらも「失点しない、少ないチャンスをものにするという本来の町田の戦い方を貫きながら、お互い大きな(決定的な)チャンスまではいかなかった、という印象です」と話した。勝利しても不用意な失点があれば、明らかなアレルギー反応を示すこともある指揮官。しかしこの日は、その表情や言葉から、感情の揺れを感じ取ることはできなかった。 前半戦の19試合を終え、12勝3分け4敗で勝ち点39。昇格初年度クラブとしては、史上初となる首位ターンを成し遂げた。チームとして最も強く意識するクリーンシートは、この日で今季8試合目で、福岡の9試合に次ぐリーグ2位の数。失点数はリーグ3位の16失点。全員の高い守備意識、細部まで徹底したマークやブロックなど、相手の良さを消す守備が躍進のベースとなった。 一方、得点数もリーグ3位の31得点。194センチFWオセフンがロングボールに競り勝ち、こぼれ球を拾って一気に速攻を仕掛ける、またはセットプレーに持ち込む、というパターンで対戦相手も苦しめてきた。しかしこの試合では、韓国代表への招集中に負傷したオセフン、天皇杯・筑波大戦でのけがで長期離脱となったMFナサンホ、FWデュークを欠くアタッカー陣が迫力を欠いた。オセフン、デュークという高さのあるセンターFWが不在で、ロングボールからの攻撃パターンを失ったことが理由のひとつ。さらにロングスローをはじめとした得意のセットプレーも、ターゲットが減ったことでいつもの破壊力が出せなかった。 守備時は5バックとなる福岡に対して苦しんだ理由について、町田のU―23日本代表MF平河悠は「相手が構えているのを、どうこじ開けるか、というシーンばかりだった」と振り返った。左MFの平河が、相手と1対1となる形でボールを持てばチャンスにつながったが、この日は福岡の右ウイングバック(WB)・小田、さらにその後ろには右センターバック(CB)のグローリと、ふたりが構えている状況が多かったという。プランとしては町田の左サイドバック・林に小田を食いつかせ、自身はグローリと1対1となる形を作り出したかったが、その状況はなかなか生み出せず。また前線の選手達がライン間でパスを引き出し、相手CBを引っ張り出すような状況を作り出す回数も少なかった。 この日、町田のボール保持率は57パーセント。この試合前の時点では、1試合平均のボール保持率で42・6パーセントのリーグ19位のチームにとって、これは“高すぎる”数字だった。ここまでボール保持率で相手を上回った試合は、この福岡戦を含め1分け2敗(神戸、磐田)。ボールを握った中で、バイタルエリア、ポケットを攻略する質に課題を残すことは明白だ。平河が「絶対この壁は、今後も出てくると思う」と語ったように、各チーム2度目の対戦となる後半戦は、町田にわざとボールを持たせるチームが増える可能性もある。だがそれは、町田が優勝を狙うためには、必ず超えなければならない壁、とも言える。 「(首位ターンは)できすぎといっていいほどの結果ですけど、これに満足することなく、もう一度チームを作り直して後半戦に入っていきたい」と語った黒田監督。堅守というベースが通用すると確信した一方、足りない部分も浮き彫りになったからこそ、浮かれることも落ち込むこともなく、淡々と次を見据えていたのだろう。前半戦最大のサプライズを生み出した町田は、明確な課題と野望を持って、後半戦に臨むことになる。
報知新聞社