震災「語り部」担う親子 体験だけでなく「心の引き継ぎ」も大事
米山さんは政治家や文化人の講演を聞きながら、しゃべりの技術を学んでいきます。一方、話を聞いてくれる人たちの要望も酌み、地元の民生委員や看護師、お坊さんなどさまざまな震災体験者を訪ね、「聞き取り」を重ねました。震災体験者の「生の声」を書き留めたファイルは、日に日に分厚くなっていきます。 ある日、米山さんはお嬢さんの未来さんが通う小学校を、語り部として訪ねました。授業前は未来さんをからかっていたクラスメイトたちも、米山さんの話を聞くと口々に「よかったね」と言ってくれたそうで、そんな父親の姿を見た未来さんは誇らしい気持ちになったと言います。 未来さんは物心ついた時期から、家族を通して震災のことを聞かされて育ちました。1月17日には学校で震災の授業があり、関西のメディアで組まれる特集を見たり聴いたりしながら、「特別な日」であると胸に刻んできました。
しかし、大学進学のために上京すると、周りの人たちとの「温度差」に驚きます。1月17日になっても阪神・淡路大震災のことを話題に上げる友人は誰もいません。関東のメディアでは、いつも通りの番組が流れていることにショックを受けました。 「父があれほど努力して伝えようとしている震災の経験が伝わっていない……」 そう感じた未来さんですが、語り部は「人の命」について語るのが役目。その責任の重さに、「震災を経験したことがない人間が行うものではない」と思っていました。 しかし、東日本大震災、熊本や北海道の地震、また相次ぐ豪雨災害のたびに犠牲者が出てしまう現実を前に、未来さんはいてもたってもいられなくなります。社会人1年目のとき、勇気を振り絞って震えながらお父様に気持ちを打ち明けました。 「私も語り部をやります!」
覚悟を決めた未来さんは、準備を重ねて2019年8月、インターネットのライブ配信で「語り部」としてデビューしました。リアルタイムで寄せられるコメントは励みになり、ファンも増えていきます。29歳になった現在は、「語り部」の活動に理解を示してくれる会社に転職もしました。 そんな未来さんに対し、米山さんもこんな言葉で背中を押します。 「震災を体験していなくても語り部はできます。体験者でも自分の体験は1つなんです。だから、語り部は1人でも多くの人に聞き取りを行い、それぞれの体験に感情を乗せて、心の引き継ぎをしていくのが大事なんです」 ちなみに、関西にいる米山さんと、関東にいる未来さん……それぞれ別々に「語り部として伝えたい、最も大事なことは何ですか?」と質問したところ、奇しくも同じ答えが返ってきました。 「少しでも地震に備えてもらいたいです。そして、1人でも多くの命を助けたいのです」