初の静止衛星打ち上げ 市場獲得へ実証、布石も H3・4号機
H3ロケットは4号機で、初の静止衛星打ち上げに成功した。 静止衛星は通信や放送、気象観測など打ち上げサービス市場でも一定の割合を占めており、今回の成功は今後の市場開拓に向け弾みになりそうだ。 静止衛星は赤道上空3万6000キロを地球の自転と同期して周回し、上空に止まっているように見えることから、そう呼ばれる。日本では気象衛星「ひまわり」やBS・CS放送衛星などがある。 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2021年に示した予測では、29年までの衛星打ち上げ需要のうち静止衛星は約4分の1を占める。近年、低軌道に打ち上げた大量の小型衛星で通信や観測を行う「コンステレーション」が拡大しつつあるが、三菱重工業でロケット開発に携わった東京理科大の小笠原宏教授は「打ち上げサービスをやる以上、静止衛星は重要なミッション。お客さんは実績がないと乗ってくれない」と指摘する。 4号機では、将来に向けた布石も打った。静止衛星は、赤道上空に直接投入されるのではなく、いったん「遷移軌道」と呼ばれる楕円(だえん)状の軌道に入った後、衛星自身のエンジンで静止軌道へと移る。ここで問題になるのが、鹿児島県・種子島宇宙センターの緯度だ。 衛星が軌道を移る際に必要なエネルギーは、低緯度から打ち上げた方が少ない。ほぼ赤道上の南米・仏領ギアナから発射するライバルのアリアン6(欧州)では、搭載衛星の燃料消費が少なく済むため、H3より運用期間を長くできる。 そこで、H3では第2段エンジンを使って衛星を静止軌道近くまで届ける手法を計画。いったん燃焼を止めた後、数時間慣性飛行を行った上で、再着火して衛星を分離する。 「ロングコースト」と呼ばれるこの手法はH2A・29号機ですでに実証済みだ。今回の打ち上げでは従来の遷移軌道に衛星を投入した後で、第2段を長時間慣性飛行させ、機体への熱の影響などのデータを取得する。 JAXAの有田誠H3プロジェクトマネジャーは「静止軌道への打ち上げが成功するというのは、H3ロケット開発の一つの仕上げという意味で重要だと考えている」と話している。