「私だけのごはんやねんからええやん」家事嫌いな私が解決してきた数々の“料理めんどいなあ”事件簿【坂口涼太郎エッセイ】
日常にこそきらめきを見出す。俳優・坂口涼太郎さんが、日々のあれこれを綴るエッセイ連載です。今回のエッセイは「号外 食探偵涼ームズ〈前編〉」です。親の脛かじり歴30年を経て、今や立派な自炊民であるお涼さんのあきらめキッチンライフ。 【写真】日常こそが舞台。自宅で「お涼」ルーティーンを撮り下ろし 家事と目を合わせることが怖い。 そうじも洗濯も片付けも洗いもんも全部苦手で億劫で、一度家事と目が合っても一旦そらし、「あー、誰かやってくれへんかなあ。ハリー・ポッターに出てきた勝手にお皿洗いとか服片付けてくれる魔法みたいなやつ、今急に使えるようにならへんかなあ」と、ハリポタスタジオツアーに行ったときに絶対に買ってやるものかと思って、家から一番杖っぽいお箸を杖の代わりに持っていったけれど、現地で実際に売られている実物の杖を見たらやっぱり私の杖っぽい箸はまごうことなき箸であり、むしろ箸以外の何ものでもない完璧な箸だということが明るみに出てしまうだけ出てしまって、結局ヴォルデモート卿の杖に「LORD RYOTARO」(涼太郎卿)と名入れしたものをちゃんと買い、元を取ろうと半ばヤケクソになりながら一日中振り回せるだけ振り回して、魔法をかけられるだけかけていたらとっても“我が君”感を味わえたので買ってよかったと思えた以来自宅の祭壇に飾られ、一切触れていない杖を見ながら、絶対に現実にならない未来を夢想して、「いや、誰もやってくれへんで。己がやるしかないんやで」と当然のことを自分に言い聞かせたあと、「やるかー! やんのか俺はー! そらやらなあかんよなー! 最初からわかってんねん実は! きぇぇぇぇぇぇぇぇ!」と自分を奮い立たせないと家事と目を合わせて向き合い、手を取り合えない極上の怠惰を有し生まれし者お涼なのですが、唯一料理だけは別格で、私にとって料理をするということは気分転換であり、瞑想であり、ゲームであり、娯楽であり、唯一好きな家事なのです。 親の脛かじり尽くし虫から脱皮したお涼が中指に人になった証を刻んでから4年が経ち、虫だった期間を取り戻すようにあらゆるレシピを見て、あらゆる料理をつくってはトライアンドエラーアンドサクセスを繰り返してきた私は、料理に対しても得意のあきらめ活動「らめ活」を適用して、あきらめられるところは存分にあきらめて、あきらめにあきらめを研ぎ澄ませて磨きをかけたお涼のお料理、“お涼理”を追求し、“あきらメニュー”の数々をちゃ舞台の上に並べるために切磋琢磨してきた。 まず最初にあきらめたのはお涼ハウスに置く場所のない炊飯器。 でも、そもそも生まれてこのかた坂口家に炊飯器はなく、お米はお鍋で炊いていて、たまに人様にそれを伝えると、すごい! 本格的! などのご感想をいただくのだけれど、お米の鍋炊き、めっちゃ簡単でっせ。 私はセラミックコーティングされたケヴンハウンの深鍋にお米を3合と水を3カップ入れて、白米を食べたいとき以外はそこに十六穀米を3パック入れたあと、すぐ強火にかけて沸騰させる。そしてぐつぐつと沸騰しはじめたら火をできる限り弱火にして14分そのままにして、出来上がり。少しだけ蒸らしてもいいし蒸らさなくてもいいから蓋を開けて、しゃもじで四等分に切って、底の方からお米を持ち上げながら混ぜればふかふかつぶつぶおいしいごはんができていて、セラミックコーティングだからお米がお鍋にこびりつくこともないので、洗いもんもらくちんで、残ったごはんは小分けにして冷凍しておくと数日間はお米を炊く手間が省けてさらにらくちん。お米が炊き上がるまでにお味噌汁やおかずを作るというミッションを達成できるかできないかというタイムアウトゲームのような感覚でマルチタスクに挑み、「24」のジャック・バウアーのような気分でお料理している。
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