市原隼人、自分へのご褒美は「時間の無駄遣い」:インタビュー
俳優の市原隼人が、「WOWOW×テレビ東京 共同製作連続 ドラマ ダブルチート 偽りの警官 Season2」(WOWOWにて毎週土曜午後10時放送・配信中)に出演。巨大詐欺組織を喰らう詐欺師で主人公の田胡悠人を演じる。本作は、WOWOW とテレ東による初の共同製作。近年ネットの普及と共に拡大し続ける様々な詐欺被害をテーマにした、クライムエンターテインメントドラマとなっている。4月からテレ東で放送されたSeason1では、交番勤務の警察官・多家良啓介(演・向井理)が、法では裁けない相手ばかりを狙う“詐欺師 K”としての顔を持ち、法を超えて悪人を華麗に欺いていくストーリー。Season2では主人公が多家良から田胡に変わり、巨大詐欺組織を相手に詐欺を行っていくというSeason1とは一味違った展開をみせる。インタビューでは、「今まで出演させていただいた作品の中で一番悩んでいるような気がしています」と語る市原が、田胡悠人をどう演じたのか、自分へのご褒美など撮影に臨むにあたり考えていたことを聞いた。(取材・撮影=村上順一) 【写真】市原隼人、撮り下ろしカット ■どうしようもない孤独感に襲われます ――出演のお話が来た時の感想と脚本を読んだ印象はいかがでしたか。 かっこよくもなく、美しくもなく、また決して美化されるものでもなく、ただただ生々しく生かされている男の姿から、他の作品では感じられないようなWOWOWさんならではの深く掘り下げた作品だと思いました。人の心の痛み、苦しみ強さ、覚悟いろんなものを感じていただける作品だと思います。 シリーズを通して、本当の正義とは何なのか、という大きなテーマが本作にはあります。誰かを犠牲にして成り立つ正義というものは僕はないと思っていて、ある一線を越えてしまうと、全ての境目がわからなくなってしまう。そんな基準も概念もわからなくなってしまった男が田胡なんです。演じるにあたりすごく悩みました。 田胡は暗闇の中から自分の答えを探し出そうとしながら詐欺師を演じているのか、根っからの詐欺師なのか、なぜ詐欺師にならなくてはならなかったのかなどお客様の事も騙しながら、物語は進んでいきます。 ――すごく難しい役とのことですが、監督とのディスカッションはいかがでしたか。 撮影に入る前に脚本を一緒に読んで、どう演じていくべきかいろいろ話し合いました。その中で深く掘っていくだけではなく、心情を前に出した作品になっていきました。(インタビュー時点では)まだ撮影中なのですが、正直撮影の本番が近づいてくると孤独感に襲われます。役に引っ張られるのが怖いと思える作品で、だからこそ観てくださる方が共感していただける部分があると思います。自分はなぜ生きているのか、生まれてきたのか、など詐欺の巧妙な手口も含めて感じていただける作品になっていると思います。 ――テレ東でSeason1が放送され、引き続いてのSeason2になります。市原さんは今まで数多くの作品で主演を務めてきましたが、今回のような Season1の物語を受けて、主演を務めるといった参加はいかがでしたか。 とても難しかったです。Season1は警察官目線、Season2 は詐欺師目線のお話しになっていくのですが、Season1では地上波ならでの見せ方をテレ東さんが提供してくださったので、我々はWOWOWさんでしか成し得ない作品の掘り下げ方、深みにハマっていく心情などと向き合っていくことが大事でした。そういった作業が今もずっと続いています。Season1とはガラッとテイストが変わっていて、新たな『ダブルチート』を感じていただけると思います。 ■撮影中に満足することはない ――クランクイン前に準備されたことは? 心に影を持った田胡の気持ちに寄り添うことでした。役というのはどんなに追いかけても虚像なんです。なので、役者というのは常にどこか後ろめたいところがありまして、その役に近づくための孤独感みたいなものがあります。涙が止まらなくなったり、声が出なくなったり、ただ歩くだけなのに、歩くことさえ苦痛になるような心情を考えていました。 ――日々ずっとそのことを考えながら過ごしていると、精神的につらい時もありますよね。 早く撮影を終えたいです(笑)。 ――ちなみに撮影中に意識されていることは? 形を残すのではなく、映像に感情を残すことです。形から引っ張られてくるものではなく、感情で引っ張ってきた形を、映像の中に残せるようにしたいのですが、それがとても難しいです。本当の正義というのは何なのか、正義のために悪というものはあるべきなのか。そもそも正義という言葉も人が作った言葉であって、その正義すら誰かが美化してしまっているもので、 本当は正義ではないのではないかといった概念がすべて崩れてきます。そんな一線を越えたものがこの作品だと思っていて、その一線を越える考えを持つということを常に意識しながら撮影しています。 ――先程、役者というのは騙してるようなものとお話しされていましたが、それはどんな役でも同じですか。 そうです。なるべく役に近づけるようにするのが役者の性だと思うのですが、どんなに必死になってもやっぱり虚像なんです。ただ、できるだけ役の気持ちを理解できるように、常識と非常識を同じだけ持つことが大事だと思っています。 僕は撮影中に満足することはないんです。今回、「今いいカットが撮れましたね」とおっしゃっていただいたシーンがあったのですが、僕はそれがいいのかすらわからない。僕はただただ作品にしがみつくしかないので、どれだけ深く掘り下げていけるかが大事になっていきます。今回はWOWOWさんならではのものを表現したり、追求できるのであればやらせていただきたい、という返事から始まって、常に模索し続けられる作品であればいいなと思いました。それと同時に答えはおそらく掴めないと思うので、常に悩んで、その様がそのまま田胡に投影されたらいいなと思っています。 ■役者の醍醐味は視聴者の声 ――今回詐欺師役というところで、市原さんは騙されないタイプ、騙されやすいタイプ、どちらだと思いますか。 騙されやすいですね(笑)。それはたぶん人を信じたいと思っているからだと思います。その人のいいところを僕は見つけたいです。幼い頃、母から「人を恨んではいけない。罪を恨みなさい」と言われてきました。その言葉もあって、僕は人をどこまでも信じていたいですし、それで騙されたとしても後悔はないです。 ――演じていて苦しいときもあると仰っていましたが、それを払拭するような役者の醍醐味、喜びを感じるところもあると思います。それはどういうところですか。 お客様の声です。印象に残っているのは「今日、目の手術があって目が見えなくなるかもしれないけど、市原さんが出演している作品を最後に選びました」、「余命があと何ヶ月しかないけど、病室で市原さんが出ている作品を観ると笑顔になれます」といったお手紙をいただいた時は、涙が止まらなくなり、観てくださる方のためにもっと尽くしたいと思いました。僕はどう思われてもいいから、できるだけ泥臭く作品にしがみついて、少しでも人の心を動かせる役者になりたいと。1人から2人、5人、10人と少しずつでも増やしていきたいという思いでやるようになってから、「心を動かす」ということが役者の醍醐味なんだと思いました。 ――役者というものが自分の軸になっているんですね。 人生の3分の2ぐらい役者として生きてきました。常に竜宮城にいるような感じで、現場に入れば情勢やニュースなどそういった情報が何も入ってこないほど作品に没入しています。帰ったら寝るだけという日々がずっと続きます。ただ、たまに全ての肩書きを忘れて、予定も立てずに、時間の無駄遣いをするというのが自分の中での贅沢なんです。それが自分へのご褒美だったりします。 (おわり) ヘアメイク:大森裕行 (VANITES)