転職経験のある管理職のほうが若手育成に自信あり?…「部下ガチャ」「配属ガチャ」「異動ガチャ」で失敗しないために必要なこと
転職経験のある管理職の方が育成実感が高い
また、管理職のキャリアとの関係も示す。 転職経験有無については、転職経験のある管理職が成功実感率19・2%、ない管理職は14・8%であった。管理職経験年数では「3年未満」17・4%、「3~10年未満」16・3%、「10年以上」15・1%であったが差は5%水準で有意ではなく、全体像を見るための参考値として提示する。 管理職自身の週労働時間別の結果を示した。「週39時間以下」が19・7%、「週40~49時間」が15・8%、「週50時間以上」が15・3%であった。なお、週50時間以上の回答者がなんと全体の48・6%に達していた。 週50 時間以上は概ね残業時間で月45時間以上相当と比定される。多くの大手企業が実態として残業時間月45時間を一般社員の上限と定めて運用していることを鑑みると、管理職自身の労働時間が非常に長いという状況にあることがわかる(なお大手企業・大卒以上・24歳以下・正規社員では、週50時間以上就業の割合は2022年で16・1%であった。比べていただきたい)。
見えてきた有効な打ち手
若手育成成功を実感している管理職の全体像を整理したうえで、具体的な打ち手についてその有効性を検証する。 まず、「配属ガチャ」「異動ガチャ」という言葉もあり、若手のキャリアに対して大きな影響を与える〝異動〞前後のコミュニケーションについて整理する。 「行っている」管理職と「行っていない」管理職との間で、有意に育成成功実感率が高かったコミュニケーションが2つ存在していた。ひとつは「事前に、異動先について希望を聞く機会を設けている」、もうひとつは「異動決定後に面談等の場で会話をする機会をつくっている」であった。 配属・異動の前後で、管理職が事前に希望を聞くこと、決定後に個別の場でコミュニケーションをとること、こうした実践には手間がかかるが、それに見合うリターンがある可能が示されている。 次に、職場での若手との日々のコミュニケーションについて、有効な手の検証を図表5―19に掲載した。高頻度(「毎週のように」「毎月のように」)で行っている管理職と低頻度(「半年に数回」「1年で1~2回」「全く行わなかった」)の者を比較する形で示している。 示した項目すべてで高頻度の管理職が、低頻度の管理職よりも育成成功実感率が高い。個々の手立てについてというよりは、シンプルに若手育成についてコミュニケーションの密度が一定程度必要であるという結果と考える。現在、上司、若手ともに忌避されつつある〝飲み会〞等についても、他のコミュニケーションと同様の肯定的な結果が出ていることは留意すべきだろう。 ただ、職場における若手との日々のコミュニケーション別の効果と希少性の項目については、実施度合いと効果にかなりの差があったため、図にそれを含めて整理しておく。 整理のうえ、明確に特殊なポジションなのは図の左上に位置する「部下に自身の知り合いを紹介する」、さらに視界を広げれば「イベントや社内外の勉強会等に、部下を誘う・紹介する」であり、高頻度で行っている管理職は少数派だがその効果は高い。若手にある種の「セレンディピティ」の提示、本人の視界の外にある機会を提供する手立てであり、新たな打ち手群として注目すべきかもしれない。 文/古屋星斗 ---------- 古屋星斗(ふるや しょうと) リクルートワークス研究所主任研究員 2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。 2017年より現職。労働市場について分析するとともに、若年人材研究を専門とし、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。リクルートワークス研究所主任研究員。 ----------