「うそ請負人」が他人を助ける? 人間の関係を細やかに描く津村記久子さんの意外な新作
「うそコンシェルジュ」津村記久子さん
うそも方便なのだろうか。昨年『水車小屋のネネ』で谷崎潤一郎賞を受けた作家による短編集だ。表題作は、うそが巧みな主人公・みのりが、他人を助けるために、絶対に見破られない作り話を創作する「うそ請負人」になる。
「人間関係の圧力を受けている人が、いかに工夫して他人に当たらないように気をつけてるかを書きたかった」
大学のサークル旅行を断れない姪(めい)のため、みのりは身勝手な叔母を装って思わぬ方法で手助けする。接待ゴルフを断れずに悩む上司には、娘を口実にしたある提案をする。
小説家もいわば、うそをつく仕事だ。「そうですね、超うそつき。うそをつき続けるのは、しんどいけど、そのコストを主人公は分かってる。だからこそ、人助けのためにうそをつくっていうこだわりがある」。作中で、みのりは先輩社員に「〈うそつき〉なんじゃなくて〈うそがつける〉っていうこと」と念を押す。
収録作はどれも一風変わっている。駐輪場で食器を割ってストレスを発散する会社員、職場の医院で隙を見てスペイン語の単語帳を作るパート女性。人間関係に苦しみつつも何とか生きる姿に、心がささくれ立つ日常をうまくやり過ごすヒントをもらえる。
1978年、大阪市生まれ。働きながら芥川賞を受けたのは15年前だった。受賞作『ポトスライムの舟』や『この世にたやすい仕事はない』など、これまでも対人関係の綾(あや)を細やかに書いてきた。現在は専業作家になり、「ずっと会社を休んでいる感覚」と語る。
今回、全11編を書き終えて、見えてきたことがあるらしい。「意固地になることをやめたら、苦痛を話せたり、つらい時に周りにいてくれる人を獲得できる。ちょっと楽しい瞬間があるかもしれない」。小説という「うそ」から出た明るい実(まこと)である。(新潮社、1980円)真崎隆文