「光る君へ」を見終えてめぐる「逢びき」 全方位ch
15日にNHK大河ドラマ「光る君へ」が終わった。大河ドラマが終わると、いよいよ年も押し詰まったと感じる。 「光る君へ」は、旅に出た主人公のまひろ(吉高由里子)が不穏な武士の時代の到来を予感するシーンで終わりを告げた。だが、基本は王朝文学を縦糸、公家文化を横糸につづられた「恋愛ドラマ」。さまざまな男と女の人間模様を1年、たっぷりと楽しませてもらった。 歴史ドラマとメロドラマのはざまを縫い、上手に仕立てたのは脚本家、大石静の力量であろう。番組の都度、その世界へいざなってくれる冬野ユミが作曲したオープニングで流れるメインテーマ曲も、王朝の恋愛物語の幕開けにふさわしい調べだったように思う。 同じ平安期を描いた大河ドラマの「風と雲と虹と」(昭和51年)は、森永エールチョコレートのコマーシャルソング「大きいことはいいことだ」で知られる山本直純が作曲し、オーケストラに和楽器を交え、コーラスまで入った堂々たるシンフォニーだった。主人公が坂東武者の平将門(加藤剛)だったこともあったのだろうが、今回は舞台が貴族社会だ。 冬野が提供したのは、力強さと繊細さを兼ね備える反田恭平のピアノを中心に据え、「甘さ」をたたえたコンチェルト風の楽曲だった。そこに生めかしいハープの音色を絡め、艶やかな曲調に仕上げた。 この曲を初めて聴いたとき、よみがえってきたクラシック音楽の曲がある。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。のちに「アラビアのロレンス」などの名作を作る名匠、デビッド・リーンが監督した映画「逢(あい)びき」で使われ、ポピュラーとなった楽曲である。 「逢びき」は互いに配偶者のある男と女の許されざる恋を描いた物語だ。クライマックスの2人の激情と切なさを表現した場面でかかる主旋律は圧巻だった。 最終的にうまくいかなくなるから、不倫は物語になる。この映画はそんな大人の恋を教えてくれたが、「光る君へ」では、藤原道長(柄本佑)の最期を思い人、まひろにみとらせた。こちらの恋はハッピーエンドだったといってもよい。 しかし、悲恋のままのほうが美しかったのではないか。そう考えると、2つの楽曲がいつまでも頭の中をめぐる。(正)