陸上競技は“人生の宝物” 76歳の挑戦「今を楽しむことで、夢が叶う」
一昨年の暮れから相羽さんは、プロコーチ・鈴木義啓さんの指導を受けています。鈴木コーチは、元・三段跳びの選手で、日本選手権で優勝した経験もあるトップアスリートです。今までの相羽さんの練習は、スタートダッシュを繰り返し、100mを2本、200mを2本、どちらも全速力で走ったあと、最後に400mを走り切って終了するという、とてもハードな内容でした。 「鈴木コーチの練習メニューは、今までとは全く違っていて、驚きましたね。まず体を温めるため、400メートルのトラックを、十分間、ゆっくりとジョギングをします。その後、股関節、腿、お尻回りの筋肉や筋を鍛えるサーキットトレーニングを行います。『腕ふり』も教えてもらいました。
腕は横に振らず“縦ぶり”することで、肩甲骨が動き、肩甲骨から腰へ、腰から足へとつながり、腕をふることで、粘り強い走りが生まれる……というわけです。メインの練習でも、全速力で走ることはなく、正しいスプリントフォームを意識しながら、80%ほどで走ります」 そんな練習を積み重ねた相羽さんが挑んだのは、8月13日~25日に開催された「世界マスターズ・スウェーデン大会」でした。 鈴木コーチの指導の成果はすぐに現れ、M75(75歳~79歳・男性の部)の100mでは、14秒21で優勝! 続く300mハードルも、2位に大差をつけて優勝します。 残りの200mと、400mに勝てば、4冠達成のチャンスです。 ところが、得意の200mでは、イタリア人のリブィオ選手に、わずか0.26 秒差で敗れて、2位になります。 「えっ、こんなに強い選手がいたのか!」 リブィオ選手は400mにも出場し、決勝で再び相羽さんと対戦します。今度こそ負けるものか、と気合を入れ、スタートのピストルが鳴ると共に相羽さんはダッシュし、先頭に立ちます。 400mは、後半に疲れが出てきますので、体力を温存しつつ、トップをキープしていた相羽さん。しかし、残り100mであのリブィオ選手が、早めのスパートを仕掛けてきました。残り80mで、抜かれてしまった相羽さん……そのとき、鈴木コーチの言葉が脳裏に浮かびます。 「相羽さん! 腕をふって、膝を上げるんだ!」 必死に腕をふり、膝を上げようとするものの、乳酸が溜まった足は思うように動かず、リブィオ選手との差は広がったまま、相羽さんは2位でゴール
しかしレースを終えて表情台に立った相羽さんからは、笑顔がこぼれていました。相羽さんは。新たなライバル、リブィオ選手と握手を交わし、次の大会で、元気に再会することを約束しました。 「もし4冠を達成していたら、次の目標を失っていたかもしれませんね。リブィオ選手は、とてつもない鉄人のようでした。彼に勝てる日まで、100歳の金メダルを目指して走り続けます」 相羽さんが大切にしている言葉は、「今を楽しむことで、夢が叶う」。陸上競技は、まさに“人生の宝物”だと言います。