ウクライナへの「安全の保証」をめぐる攻防――日本はなぜ「安全のコミットメント」も避けるのか
日本のウクライナ支援においても重要なステップになった[ウクライナのドミトロ・クレバ外相(右)と握手する林外相(当時)=2023年9月9日、ウクライナ・キーウ](外務省HPより)
2023年9月9日の朝、快晴のキーウに林芳正外相が降り立った。前年2月のロシアによるウクライナ全面侵攻以降、日本からの初めての外相訪問だ。岸田文雄首相の訪問は同年3月に実現した。総理訪問については事前に多くの議論がなされた一方で、本来総理よりも前に実現しておかしくなかった外相のキーウ訪問は、なぜだかマスコミでほとんど話題になっていなかった。ただし、9月の国連総会に合わせてG7外相会合が予定され、その直前のポーランド訪問だったため、関係者の間ではウクライナまで足を伸ばす可能性が取り沙汰されていた。そうしたなかでの訪問だった。 林外相自身は、帰国直後の9月13日におこなわれた内閣改造で突如として外相ポストを去ることになり、これは多くの人に驚きをもって受け止められた。それでも今回の訪問は、開戦以降議論が続いてきたウクライナに対する「安全の保証(security guarantee)」をめぐる外交的駆け引きの観点で極めて興味深く、また、日本のウクライナ支援においても重要なステップになった。以下で順にみていこう。 ウクライナが求めているのはNATO(北大西洋条約機構)への加盟だが、それがすぐに実現しないことはウクライナ自身が認識しているため、それまでの過渡的な措置として「安全の保証」を求めている。「保証」にあたる言葉は、英語では「guarantee」が用いられることがほとんどだ。
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鶴岡路人