無料なのにVIP待遇「サッカー記者席」の大問題(1)Jリーグでは設置「義務化」も…監督たちに嫌われる「上から目線」
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、有料の観客席よりも優遇される無料の記者席の「問題点」と課せられた「責任」について、自分自身に対する「戒め」とともに、立ち止まって考える。 ■【画像】あまりにも広すぎる「2022年W杯カタール大会」の記者席
■メインスタンド中央部に「屋根付き」
取材の日、私は遅くてもキックオフの1時間前にはスタジアムに到着し、そのまま記者席に上がる。決められた(決められていないこともあるが)席に座り、バッグからノートと筆記用具、そしてパソコンなどを取り出し、机の上に並べてピッチを見渡すと、すうっと心が落ち着く。だが、このとき同時に、私の心は小さな痛みを感じている…。 プロの試合を行うスタジアムには、「記者席」は必須だ。Jリーグでも、2024年の「スタジアム基準」で、「メインスタンド中央部でスタジアム全体が見渡せる位置に屋根付きで設置すること」「ノートパソコン、ノートが置ける十分な広さの机と電源を設置すること」がJ1からJ3までのスタジアムで必須条件となっている。さらにJ1とJ2では、wi-fiや暖房の設置も順次設置するよう指導されている。 「記者席」は、英語では「Press Tribune(プレス・トリビューン)」あるいは「Media Tribune(メディア・トリビューン)」と呼ぶのが普通だ。 辞書を引くと、「トリビューン」というのは、ラテン語の「トリブス」から生まれた言葉だとある。
■起源はオオカミに育てられた「双子」
唐突だが、伝説では、ローマを建国したのは、オオカミに育てられた「ロムルス」と「レムス」という双子の兄弟だった。東京の味の素スタジアムに隣接する飲食施設「ポケットガーデン」のウッドデッキにオオカミの乳を吸う2人の赤ん坊のブロンズ像がある。どちらがどちらかわからないが、この2人の赤ん坊がロムルスとレムスである。 味の素スタジアムのブロンズ像は、都心の日比谷公園に置かれている「狼像」のレプリカで、こちらは、昭和13年(1938年)にローマ市から寄贈されたものだ。もちろん、日比谷公園のものもレプリカで、「本家」はローマにある「カピトリーノのオオカミ」と呼ばれる有名な像だ。 ただし、オオカミと2人の赤ん坊は、最初からひとつのブロンズ像としてつくられたものではないらしい。前者は紀元前5世紀の製作とも言われて作者不詳だが、2000年近くオオカミだけの像だったものに、15世紀になって、双子像を付け加えたというのである。双子像の作者はアントニオ・デルポライオロという彫刻家ということが知られている。 日比谷公園の像について、私はローマ市と東京市が姉妹都市になったことで寄贈されたものと思っていたのだが、今日的な「姉妹都市」の制度が始まるのは第二次世界大戦が終わった後のことで、東京とローマが姉妹都市協定を結んだのは1996年のこと。1938年というのは、2年後の「三国同盟(ドイツ、イタリア、日本)につながる、政治的な色合いを帯びたものだったのかもしれない。 ともかく、この双子が地域の部族を切り従え、やがて兄弟は仲たがいしてレムスが殺され、紀元前753年にロムルスが「ローマ王国」を建設して初代に王となった。現在のローマ市の中心部ほどの支配地域しかなかった小さな国ローマが、やがて国王を廃して「共和制」となり、イタリア半島全域を平定し、紀元前27年には「ローマ帝国」となって、全欧州と北アフリカを支配する大帝国となる。
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