ブレーキングと加速が勝負を分ける、もてぎ開催の日本GP。中上貴晶が立ち向かう怪物MotoGPライダーたち
レジェンドたちをミックスした最高技術を持つバニャイア
2年連続王者のフランチェスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)もブレーキングが巧み。
MotoGPタイトルを3度手にしたホルヘ・ロレンソやロッシの宿敵でもあったマックス・ビアッジに近い、コーナリング速度を重視するタイプだといわれるが、制動に伴うマシンの動きをより旋回に生かしている。 時にブレーキングでリアをスライドさせて摩擦による制動力を高め、同時に弱オーバーステア(走行ラインが想定より内側に切れ込んでいく現象)を発生させることで、早くバイクの向きを変えてスピードにつなげる。それを自在かつミスなく操れるのがチャンピオンたる所以だろう。 「直進状態でのブレーキング、進入、ブレーキリリースでの脱出に分けてコーナーを理解する必要があり、自分はストレートでのブレーキングが最も上手いライダーのひとりだと思っている。そのおかげでコーナリングスピードを上げることができる」と自身も語っており、ドゥカティのテストライダー、ミケーレ・ピロは過去に同チームで走ったレジェンドたちと比較し、「ペッコは(アンドレア)ドヴィツィオーゾのブレーキング、ロレンソの進入、(ケーシー)ストーナーの脱出をミックスした最高の技術を持っている」と評している。
“マルケス以来の天才”アコスタが見せたオーバーテイク
“マルケス以来の天才”と称されるペドロ・アコスタ(レッドブル・ガスガス・テック3)にも注目が集まる。
ブレーキング勝負というと、かつてのケビン・シュワンツのような激しい突っ込みを想像してしまうが、20歳のルーキーは、かけるタイミングを遅らせながらもその後に挙動を乱さない。 開幕戦カタールGPのストレートエンドでマルケスのインを差し、続くポルトガルGPではマルケスに加えてバニャイアもオーバーテイク。オーバーランやスリップダウンを心配させる抜き方もあったが、微妙なブレーキ圧の調整や繊細な荷重コントロールで破綻をきたさなかった。
ここまでブレーキングに的を絞って話を進めてきたが、加速力に優れたドゥカティを駆るホルヘ・マルティン(プリマ・プラマック・レーシング)も優勝の可能性大。デスモセディチGP24はドゥカティのゼネラルマネージャー、ジジ・ダッリーニャが「エンジンは重要な一歩を踏み出した」とシーズン前に話した出来栄えだ。 オーソドックスなフォームの中上に対し、マルティンは小さな身体を思い切りコーナーに擦り付けるスタイルなので、その辺りを観察してみるのも面白い。
井出ナオト(編集PBKK)