「ロック完全復活」の今、ジャック・ホワイトが王道のガレージサウンドを鳴らす意味
二周目のロックンロール・リバイバルはどこに向かう?
そして何より、ジャック・ホワイトは生粋の「リバイバリスト」でもある。 そもそもザ・ホワイト・ストライプスがブレイクしたのも、2001年にザ・ストロークスをきっかけに始まった「ロックンロール・リバイバル」というムーブメントに図らずも乗ったからだった。そもそもザ・ホワイト・ストライプスは90年代の時点で“時代錯誤”なガレージブルーズをアンダーグラウンドで鳴らし来日公演も行っていたのだが、そのレトロモダンな手法やリバイバル気質が、ザ・ストロークスに続くバンドを求めていた英メディアのアンテナにキャッチされたのだ。そして、その生々しいガレージロックサウンドと2ピースという特異な編成によるスカスカのサウンドは、当時あまりにも画一的になっていたヘヴィーロックや、商業主義に陥っていたヒップホップへのアンチテーゼとして機能した。 かつてロックのリバイバルといえば、ハードロックやプログレ、ヘアメタルなど、ロック内の派生ジャンルへのアンチテーゼとしての動きだったものだが、現代のロックンロールリバイバルは、他ジャンルへの反動やオルタナティブとしての要素も孕むようになった。その傾向は2001年当時よりも、この2024年の動きの方が顕著だ。クオンタイズされた打ち込みのビートや、生ドラムセットやベースギターでは鳴らすことのできない低音が当たり前となった今、逆にロックバンドのスカスカでダイナミックなサウンドが新鮮に聴こえるのだろう。 さらに本作の最初のリリース方法を思い出してみよう。デジタル配信が当たり前のものとなり、毎週金曜の新作リリースを受け身で待つ現代において、レコード店に自発的に訪れたリスナーに対して匿名のアナログレコードをプレゼントすることでリリースした本作は、音楽ジャンルのみならずそのカルチャー全体へのアンチ、オルタナティブ、リバイバルとも言えるのではないだろうか。 その上で注目したいのは、この『No Name』はこれまでのジャック・ホワイト作品のどれとも違うということだ。確かにザ・ホワイト・ストライプス的な要素はあちこちに見て取ることはできるが、当時のザ・ホワイト・ストライプスとは確実に違う。そもそも「1963年以降の機材は使っていない」というステートメント(後のジャック・ホワイトの発言によるとどうもブラフっぽい)とともにリリースされた、ザ・ホワイト・ストライプス2003年作『Elephant』は、到底60年代には存在するはずもない2003年的なレコードだった。そうだ。リバイバルとは、ただの懐古でも回帰でもない。地球を含む太陽系は一定の位置にいるのではなく、太陽系全体で宇宙を高速で移動していることをイメージしてほしい。それと同じように、あらゆるムーブメントは一周してまた戻ってきているように見えるかもしれない。しかし、実は以前とは違う場所にたどり着いているものなのだ。 正直なところ、ザ・ホワイト・ストライプスを連想するからこそ「メグ・ホワイトのあのドラムが恋しい」と思う瞬間は、何度もある。しかし、彼女の不在がこのレコードに言いようのない焦燥感を与え、駆動させている気がしてならない。 --- ジャック・ホワイト 『No Name』 2024年10月23日 日本盤CDリリース
Kenta Terunuma