両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.7
まさに「地獄」の様相を呈している――2021年に発生した軍部によるクーデター以降、ミャンマーでは軍事政権の国軍(ミャンマー軍)と、軍事組織としてのKNLAを有するKNU(カレン民族同盟)やカチン州、シャン州、カヤ州などの武装勢力が組織した反政府(反軍事政権)の連合的武装組織PDFの戦闘が激化している。今年に入り、軍事政権はついに18歳以上の国民を徴兵するとまで発表した。 2024年現在、ミャンマーに向けられる視線は「反民主的な軍事政権VS民主化を求めるレジスタンス的武装勢力」の構図一色に塗りつぶされているが、はたしてクーデターが発生する前のミャンマー、そのディテールに目を向けていた者がどれほどいただろうか。 本連載は、今では顧みられることもなくなったいくつかの出来事と、ふたつの腕で身体を引きずるように歩くカレン族の牧師を支えた日本人武道家を紹介するささやかな記録である。
そんな仕組みは存在しない
「彼らは決まった給料もなしに戦っている。支えるのは当然だ」 〈イギリス人の組織〉の協力者であるカレン族の男性は、KNLAのスポンサーでもある。彼は毎年2万バーツ(約7万円)の現金をKNLAに寄付し、定期的に米と野菜、油なども提供している。 この協力者は、ヤンゴンの経済特区に「従業員」を送り込む仕事をしており、彼の父親や親戚はいくつかのカレン族の集落を統治している。それらの集落は、ミャンマー政府との停戦協定の交渉において、KNLAの〈所有地〉という扱いになっているため、ミャンマー軍はKNLAへの事前通告と承認なしに、それらの集落の敷地へ立ち入ることができないのだという。 「武器を手放しさえしなければ、いつか自治権は手に入る」 スポンサーが言うと、士官も続けた。 「でも金がなきゃ、人は離れる。おれも妻と子供を食わせなきゃならん」 形式として、KNLAの戦闘員には給料がない。
プロの兵士
現在、50歳に近づいた士官がKNLAに入隊したのは、16歳のときだったという。 「おれは子供の頃から、農民には向いていなかった。おれの両親は農民だったが、農民は貧しい。ガキの頃から、おれはKNLAに協力した。彼らはおれを褒めてくれたし、飯も食わせてくれた。だからKNLAに入った。この頃のおれたちは、プロの兵士だった。現場出動を交えた訓練期間は数年にわたり、皆、それなりの実戦経験を積んだ。農民よりたくさんの金ももらった。だが、とうの昔にマナプロウは陥落し、今、組織は危機に瀕している。こいつを見てくれよ」 士官は、若い兵士に目をやった。まだ20歳になったばかりだという。 「こんな時世でも、志を持ってKNLAに入ってくれた。良い奴だ。でも、こいつには実戦経験がない。おれたちには金もないから、ロクに訓練もしてやれない。ずっと戦争が続くと思ったから兵士になったのに、今じゃあ、戦争もなくなっちまった……でも、カネを見つけるチャンスはあるんだ」