トラバサミで両前脚がちぎれた子猫 今では後ろ脚で歩き、トイレも食事も自分で
猫って、すごい!
保護・手術から3カ月。今のラブちゃんの生活は「ふつうの猫と変わりません」と、成井さんは言う。「すごくお利口さんで甘えんぼでいい子なんです」とも。背中を後ろ脚で搔いてしまうので、予防で洋服を着せているが、両肩の手術痕にはきれいに毛も生えてきた。 ラブちゃんは成井さんと一緒のベッドで寝るが、朝は自分でぴょんと床に飛び降り、後ろ脚で着地するという。出窓などの段差にあがるときは、まず上体を段上に預け、よいしょと後ろ脚を次々あげて上る。この調子で階段上りもすぐにクリアするだろう。 そんなラブちゃんを見て、満川先生は「早まらなくてよかった」としみじみ思う。あの時は前両脚を失った猫の生活は「できないことだらけ」としか想像できず、猫の「底力」がここまでとは思っていなかった。 手術を指導してくださった齊藤先生も、術後に先輩医師にラブちゃんの話をしたら、こんなことを言われたそうだ。 「そうさ、簡単にあきらめて猫様の可能性を閉じてはいけないよ」 齊藤先生は心から思う。「私たちの想像をはるかに超えた能力を見せつけてくれたラブ様には、こちらから、ありがとうございますと言いたい」と。 ラブちゃんの保護後、警察と市役所環境課では、付近の草むらに違法トラバサミの設置はないか見回ってくれ、口頭で注意喚起もしてくれたが、見つかってはいない。このままでは、外猫はもちろん、子供や散歩する飼い犬にとってもたいへん危険なので、市の広報紙でも「トラバサミは違法。見つけたら一報を」と広報してくれる約束だ。 成井さんのラブちゃんへのいとしさはいや増すばかりだが、腎臓の数値など体調がもう少し整って、避妊手術を終えたら、譲渡会に参加させる予定だという。 「うちには、この後も保護待ったなしの預かりっ子たちが次々とやってくるでしょう。ラブには、ラブだけをしっかり見守って、愛し育ててくれる家族を見つけてやりたいんです」 手術後のケージや術後服を貸してくれたのは、市内で保護活動をするもう一つの団体だった。発見者の山下さんも、ラブちゃんのことがきっかけで保護活動のお手伝いをしてくれるようになった。携わった先生方も、その後のラブちゃんをいつも気にかけてくださっている。捨てられたのかノラ生まれだったのか、1匹の小さな猫は、その生きる姿でたくさんのことを人間に気づかせ、つなぎ合う手を増やしてくれている。 成井さんはラブちゃんを胸に、しみじみと言った。「周りから愛されるようにと、ラブという名をつけたのですが、それ以上に人を信じ愛してくれる子でした。猫って、ほんとうにすごいなあ」