トラバサミで両前脚がちぎれた子猫 今では後ろ脚で歩き、トイレも食事も自分で
「手術をやってみましょう!」
満川先生の病院は、TNR専門なので、安楽死の薬剤はない。日頃から連携をとっている先輩獣医師たちにラインで相談をした。犬猫の殺処分ゼロという志を同じくする齊藤朋子先生や黒澤理紗先生たちと真剣に話し合っているうちに「安楽死はいつでもできる。せっかく救われた命。断脚手術をやってみては」という方向へみんなの思いは向かった。壊死(えし)した部分が細菌感染しないためには、肩からの断脚となる。 「齊藤先生のもとで断脚手術をやってみましょう」という話を満川先生から聞いた成井さんは、泣きそうになった。 「うれしくって、うれしくって。私の頭には、安楽死という考えが浮かんだことは一度もありませんでした。発見してくれた山下さんも同じですが、ただただ、この子に生きている幸せを少しでも感じてほしかった」
新しい自分のからだで
肩からの両前脚断脚手術は、手術経験豊富な齊藤先生の指示と協力の下、満川先生が行った。この月齢にしては痩せていて、筋肉はほとんどついていなかった。手術は無事終了。 術後は満川先生預かりとなり、翌日には食べて排便もした子猫だったが、その2日後に少し調子を崩した。通院のできる設備の整った病院へということで、近隣の「とがし動物病院」へ成井さんが連れていく。満川先生は、こと細やかに、手術内容や手術後に使った薬の種類や量など申し送り書面にしてくださった。 「一匹の保護猫に注ぐ先生方の思いと連携に、感激しました」と、成井さんは目を潤ませる。 そして、体調が整って成井さん預かりとなった猫は「ラブ」と名付けられ、このままケージ・イン暮らしが続くものと思っていた成井さんをびっくり仰天させる。 術後ほどなく、後ろ脚で立ち上がり、バランスを上手にとって前かがみでチョロチョロ歩き出したのだ。 少し手前に倒した食器を用意すると、ラブちゃんは、上体を前倒しにしてご飯を食べた。入りやすいトイレを用意したら、それも中腰で使いこなした。排泄した後は前脚で砂をかけているつもりらしく、肩の筋肉が動いている。そう、ラブちゃんは、今ある自分の体をバランスよく使って、元通りの暮らしを始めたのだ。