富士山と宗教(9) 解けない謎、なぜ溶岩の末端に神社があるのか?
遥拝所のある山宮浅間神社(やまみやせんげんじんじゃ)は、富士山の噴火により流れ出た溶岩の末端に位置しているという。また、富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ)も溶岩との境に位置し、境内にある湧玉池には溶岩の間から富士山の雪解け水が地上に湧き出ている。その水は神田川を形成して富士宮市街へと流れ出ている。
活発な火山列島が衝突している場所
富士山はどのような山なのだろうか? 火山学が専門の小山真人・静岡大学教授によると、活発な火山列島同士がぶつかりあっている場所に富士山はある。そして、そのような場所は、現在の地球上には他にないのだそうだ。「そういう意味では地球上の特異点」と小山教授は指摘する。 富士山は、北アメリカプレートとユーラシアプレート、フィリピン海プレートという3つのプレートが交わる境界に位置し、そこでは、プレートが沈み込むことによってできた2つの火山列島である日本列島と伊豆小笠原諸島が衝突しているという。「強い圧縮が働いている場所なので、普通はマグマの地上への通り道が塞がれて大きな火山はできないはず。にもかかわらず、そこに大量のマグマが地下深部から昇ってきて、巨大な火山ができた。それが富士山です」と小山教授は話す。
富士山が生まれたのは約10万年前。正確に言えば、それは現在の富士山の前身の「古富士火山」。その後、約1万年前、古富士火山の西側に「新富士火山」ができた。古富士火山と新富士火山の東西2つの峰をもつツインピークの山になった。しかし、今から2900年前、東側の古富士火山の峰が崩壊して今の富士山になったという。 小山教授によれば、2900年前には西の峰は3500メートル程度の高さまで成長していたとのことなので、現在よりもやや低いものの、今の富士山とそれほど変わらない富士山が2900年前にすでにそびえていたようだ。
JR三島駅北口にある岩の塊
その間、富士山は繰り返し噴火をして溶岩を流した。静岡県三島市のJR三島駅北口。富士山が目前に見える北口駅前には私立大学の校舎やホテルが建ち、ロータリーも整備されてタクシーやバス、送迎の車などが行き交う。 そんな駅前の道路沿いに大きな黒茶の岩の塊がむき出しになって、通りの一角を構成している。また、東海道新幹線の高架下のコンクリ壁にも同様の岩の塊が組み込まれている。表面にいくつもの小さな穴があいた、それら黒茶の岩こそ約1万年前に噴火した富士山から流れてきた溶岩だという。三島駅周辺にはこうした溶岩が様々な所で見られ、街の風景と一体化している。 線路をはさんだ三島駅南口には三嶋大社があるが、三嶋大社から少し離れた所にひっそりと浅間神社が建っている。この神社について、「富士山の大噴火で溶岩が流出した時、ここで溶岩の流れが止まったので、岩止浅間と称して神祠を建て、崇めたと伝えられている」と記している文献もある。 小山教授によると、約1500年前に流れ出た溶岩の末端に山宮浅間神社の遥拝所が建てられている。一方、1万年近く前の別の溶岩の末端に富士山本宮浅間大社がある。富士山本宮浅間大社の溶岩の方がはるかに古いということになる。