湘南ベルマーレJ2降格の背景にある移籍モラルの崩壊
湘南は以前から育成に比重を置いてきた。 例えば高崎経済大学附属高校までは無名だったFW石原直樹(現浦和)を6年かけてエースへ成長させ、大宮へ完全移籍で送り出した2008シーズンのオフには、1億円の違約金が支払われている。 翻って昨シーズンのオフは、前出の4人に期限付き移籍を完全移籍に切り替えたリオ五輪代表DF亀川諒史(福岡)を加えた5人の主力候補が湘南を去った。しかし、違約金の合計額は石原一人のケースと「ほとんど変わらなかった」と眞壁会長は続けた。 「これが日本の中小クラブが選手を育てる現実ですけど、ヨーロッパは違う。選手を育てるクラブにはちゃんとした額のお金が入る。選手が『移籍したい』といえば喜んで送り出すし、獲得する側も値段を崩してまで取ろうとはしない。代理人に理由を聞くと『だいたいの常識がそうですから』という言葉が返ってくるけど、日本の常識とは誰が作ったのか。(違約金の)ハードルを下げたままなら、日本に育成型クラブなんてできるわけがない」 今シーズンの湘南の年間運営予算は約15億円。言うまでもなくJ1では少ない側から数えた方が早いが、親会社をもたない市民クラブとしては精いっぱいの金額でもある。選手たちの年俸も、必然的に低く抑えざるを得ない。それでも時間と愛情を込めて、選手たちの心技体を鍛え上げてきた。 その象徴が年代別の代表と無縁だった永木、中学までは無名だった遠藤のハリルジャパン経験者となる。しかし、日本独自の暗黙のルールのもとに主力を有力クラブに引き抜かれ、育ててきた労力に見合わない違約金が支払われ続ける限りは、Jリーグ内における“格差”はどんどん開いていくだろう。 湘南はJ2を戦う来シーズン以降も、育成を重視するスタンスを変えない。眞壁会長もお金がない状態に甘んじるのではなく、ヴァンフォーレ甲府やアルビレックス新潟に代表される地方クラブに倣い、経営規模を拡大させる努力を至上命題と掲げることで捲土重来を誓っている。 ぶれない姿勢に敬意を表するとともに、世界基準とは乖離した違約金設定に導かれた“格差”が、日本代表にも寄与している湘南がJ2へ降格する一因をなした事実を、Jリーグをはじめとする日本サッカー界は努めて重く受け止めるべきだと切に思う。(金額はいずれも推定) (文責・藤江直人/スポーツライター)