山で遭難、スマホも圏外…でも「わずか20秒で発見」 救助隊員も驚いた、ドローンを駆使する新技術 ソフトバンクが実用化へ
「捜索範囲が100メートル以内でも、はっきりと居場所が分からない人を実際に見つけるのは難しい」。羊蹄山ろく消防組合消防本部の川口英樹主幹は、新技術に大きな期待を寄せる。 川口さんによると、雪崩で埋もれた遭難者を見つけるためには通常「プローブ」という長さ約3メートルの棒を垂直に突き刺しながら少しずつ進む。遭難者の詳しい位置が分からないと、雪崩の末端から広い範囲を捜索しなければならない。その分、プローブを突いては引き抜く回数が増えることになる。細い棒であっても負担の大きい作業で、隊員の体力も奪われる。捜索に時間がかかれば、遭難者の命により大きな危険が及ぶ。 ソフトバンクフェローで技術開発を担当する東京工業大の藤井輝也特任教授は利点を強調する。「やみくもに探すことなく、一直線で遭難者の位置にたどり着くことができる」。救助隊の移動履歴も分かるため、隊員の安全確保にも役立つという。 総務省の調査によると、スマホの世帯保有率は2021年にほぼ90%に達する。これほど広く普及したスマホに搭載されたGPS機能を活用しない手はない。しかし問題は圏外エリアだった。GPSは、上空の衛星から出る信号を受信して位置を特定する仕組み。遭難者が持つスマホの位置情報を、捜索に当たる側が取得するためには携帯電波が必要となるからだ。
ただドローンが中継できるのはソフトバンクの回線のみ。そこでドローンにはWi―Fiの電波を射出できる機能も搭載した。こうすることで、他社回線のスマホにも対応することが可能だ。 技術の利用には専用アプリを事前にダウンロードする必要がある。実用化には登山愛好家らへの周知が欠かせない。 またソフトバンクは現在、アプリが入っていないスマホでも捜索できる技術の開発にも取り組んでいる。同社の回線を使うスマホの場合、捜索側が遭難者の電話番号を入力すると、遭難者のスマホ画面にポップアップが出現。アプリのサーバーが位置情報を取得するのを、遭難者はワンクリックで承認できる。位置情報は個人情報に該当するため、一方的に取得することはできず、同意を得る必要があるからだ。さらには他社回線の場合でも捜索できる仕組みを検討しているという。 位置情報のさらなる精度向上も課題だ。現在の技術では、絞り込みは3~5メートルの範囲が限度。ただ山岳救助は時間との勝負だ。現場の救助隊からは「できれば3メートル以内、欲を言えば1メートル以内」という要望もあり、実現に向けて研究を進めている。
昨年8月に山で遭難した人の家族が、藤井特任教授の研究内容を聞きつけ、助けを求めるメールを送ってきたことがあった。楽しい登山やスキーも必ずリスクを伴う。藤井特任教授はこう語った。「遭難者やその家族の期待に応えられるように、早く実用化したい」