麦倉正樹の「2023年 年間ベストドラマTOP10」 描かれるべき“物語”はまだまだある
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2023年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第7回の選者は、無類のドラマフリークであるライターの麦倉正樹。(編集部) 【写真】最大の“発明”とも言える冨永愛による徳川吉宗 1. 『大奥 Season1』(NHK総合) 2. 『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系) 3. 『大奥 Season2』(NHK総合) 4. 『舞妓さんちのまかないさん』(Netflix) 5. 『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系) 6. 『セクシー田中さん』(日本テレビ系) 7. 『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系) 8. 『きのう何食べた? season2』(テレビ東京系) 9. 『すべて忘れてしまうから』(ディズニープラス) 10. 『僕の手を売ります』(FOD) 昨年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が、最初から最後まで、あまりに面白かったせいもあるのだろうけど、結局のところ、最初から最後まで、あまり入れ込んで観ることがなかった大河ドラマ『どうする家康』が残念だったけれど、その分気を吐いたのは、同局で1月期、10月期と2シーズンにわたって放送された『大奥』だった。 もともと個人的に感銘を受けていた、よしながふみの漫画が原作とはいえ、約17年続いた連載の「完結」を受けた、初めての実写作品であることはもとより、そこから「尊厳を踏みにじられた者たちの物語」というテーマを抽出して、やや駆け足でありながらも(全19巻の原作をS1、S2合わせて計21話にまとめるのだから致し方ない)、3代家光から15代慶喜の時代までをシームレスに繋ぎ合わせ描き切った脚本家・森下佳子の剛腕ぶりは見事だったと思う。 とはいえ、キャスティング面においては、ややバラつきがあったというのが個人的な感想であり、「役者のアンサンブル」という意味では、Season2よりもやはりSeason1のほうが見どころが多かったように思う。鈴木杏の「平賀源内」や仲間由紀恵の「一橋治済」、岸井ゆきのの「和宮」も良かったけれど、冨永愛の「徳川吉宗」は、ある意味このドラマ最大の「発明」だったのではないだろうか? 「人生やり直しもの」というのは、特に目新しい題材ではないけれど、バカリズム脚本の『ブラッシュアップライフ』には、面白いように翻弄され、毎週楽しみに観ていた。SF的な新味よりも、安藤サクラ、夏帆、木南晴夏が演じる「仲良し3人組」の会話や関係性の妙味や、徹頭徹尾ささやかな世界を描きつつも、それが「生まれ直し」によって大胆に再構築されてゆく有り様を、毎回大いに楽しんだ。とりわけ、もはや「何でもアリ」であるがゆえ(?)、どこに行きつくのか皆目見当のつかない物語の「結末」に関しては。そのあたりはやはり、原作を持たない「オリジナル作」ならではの醍醐味なのだろう。 「演出」という面で強く惹きつけられたのは、是枝裕和監督をはじめ「分福」の若手も多く参加していた『舞妓さんちのまかないさん』だった。京都の花街文化の魅力と、毎回登場する美味しそうな食べ物。主演の森七菜と出口夏希の魅力はもちろん、彼女たちを取り巻く人々の「群像劇」としても、すごく魅力的なドラマだった。それだけに、その後、森七菜が主演した『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)には、失望と困惑を隠しきれなかったのだが……。何はともあれ、『舞妓さんちのまかないさん』は、ひとりでも多くの人に観てもらいたい、実に愛すべきドラマシリーズだったと思う。 そしてもうひとつ。チーフ演出の西谷弘をはじめ、同局のヒット作『昼顔』直系のドラマであるように思うけど、『あなたがしてくれなくても』も、センセーショナルなタイトルとは裏腹に、とてもていねいな演出が施されたドラマだったように思う。端的に言うと、この2つは「映画」の匂いを確かに感じるような「画づくり」と「演出」だった。 その他では、SP版や映画版を経て、もはやこのキャスティングにすっかり馴染んでしまっていることに改め気づいた、信頼と安心の『きのう何食べた? season2』。タイトルの印象とは異なり、誰かひとりの存在ではなく、「田中さん」を中心に相互に関係する人々が、それぞれに影響を与えながら少しずつ緩やかな変化を遂げてゆくという、思いのほかていねいな「群像劇」が、軽妙なタッチで描き出されていった『セクシー田中さん』。 夫の介護、夫の愛人との同居、嫁姑問題など、かなりシリアスでヘヴィな問題に対して真正面から向き合いつつも、自身の感情の揺れ動きについても真正面から向き合うヒロイン像が新しかった『ゆりあ先生の赤い糸』も強く印象に残った。そう、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)を観ながら、「もっと感情をぶつけ合ってもいいのにな……」と思ってしまったのは、同クールに『ゆりあ先生の赤い糸』があったからかもしれない。まあ、年齢や世代によるものなのかもしれないけど、自分はこっち側ですね。山田太一原理主義者なので。 と、ここまで書いてきて、『ブラッシュアップライフ』以外の作品が、すべて漫画原作、しかも女性作家による(と思われる)ものばかりということに気づいて改めて驚いたけれど、それは単なる個人的な「好み」ではなく、ある意味、時代的なものなのかもしれない。描かれるべき「物語」は、まだまだあるのだ。 最後にもうひとつ。先ほど是枝監督の名前を挙げたけれど、映画監督が参加しているドラマシリーズという意味では、池田千尋監督が参加していた『初恋、ざらり』(テレビ東京系)、菊地健雄監督が参加していた『彼女たちの犯罪』(読売テレビ・日本テレビ系)、配信開始は昨年だったけれど、今年地上波でも放送されていた岨手由貴子監督、沖田修一監督、大江崇允監督らによる『すべて忘れてしまうから』、冨永昌敬監督がオダギリジョー主演で撮り上げた『僕の手を売ります』も、なかなか良かった。 とりわけ、各話の最後にあるライブシーン(配信版ではフル尺で観られるので、そちらでの視聴をオススメ)が、ドラマに独特な余韻をもたらせていた『すべて忘れてしまうから』、冨永監督が、オダギリジョーの「あてがき」で、全話の脚本と演出を担当した、完全なオリジナル作品である『僕の手を売ります』は、もっと多くの人に楽しんでもらいたいと思って、リストに加えさせてもらった。今回選んだ10本の中で、完全なオリジナル作品は本作と『ブラッシュアップライフ』だけというのもあって。 「原作もの」もいいけれど、どうしても原作との「比較」という観点が出てしまう。いろいろと事情があるのはわかるけど、そうではなく、最初から「テレビドラマ」という表現を前提とした「オリジナル作品」をもっと観たいし、そういうものを純粋に楽しみたいと、ささやかに思います。それは、演者や作り手も同じだと思うのだけれど……。ちなみに『僕の手を売ります』は、Prime Videoでも視聴可能なので是非。
麦倉正樹