新キャプテン・アメリカを継承する意味とは?「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」で描かれたファルコン=サム・ウィルソンの葛藤と決意
『デッドプール&ウルヴァリン』(公開中)は大ヒットを記録し、ロバート・ダウニー・Jr.が大物ヴィランであるドクター・ドゥーム役で帰還するというニュースによって、この夏、再び大きな盛り上がりを見せているマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)。そして、2025年2月には、新たなキャプテン・アメリカの活躍を描く『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(2月14日公開)が控えており、ますます目が離せない状態になったと言えるだろう。そこで今回、新たなキャプテン・アメリカとしての活躍が期待される、元はファルコンを名乗っていたヒーロー、サム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)のこれまでを振り返ってみたい。 【写真を見る】「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」で新たにキャプテン・アメリカになる決意をしたサム・ウィルソン ■コミックスにおけるファルコン=サム・ウィルソンの立ち位置 MCU版のファルコンについて触れる前に、まずは原作となるマーベル・コミック版のファルコンを説明していきたい。ファルコンがマーベル・コミックに初登場したのは1969年。レッドスカルがスティーブ・ロジャースを陥れるために、ハーレム出身の元犯罪者の青年、サム・ウィルソンにある能力を与えたことでファルコンは誕生することになる。 レッドスカルが持つコズミック・キューブによって、サムはペットとして飼っていたハヤブサのレッドウイングとテレパシーを使って交信する能力を開花。戦いのなかで出会ったスティーブを補佐する形で行動を共にし、ブラックパンサーから送られたハイテク機能を持つ人工翼を身につけたことで、ヒーローとして活動していくことになる。その後、レッドスカルの計画が実行されるが、サムは強い精神で洗脳を解きその呪縛からも解放されたことで、スティーブのよき理解者にして相棒となっていく。 ちなみに、ウィンター・ソルジャーことバッキー・バーンズは、(MCUと同じく)コミックスでも第二次世界大戦時にスティーブの相棒として活躍。バットマンにおけるロビンのような存在だった。しかし、戦時下に死亡し、スパイダーマンにおけるベンおじさんと並んで、“二大生き返らないキャラクター”と言われ続けてきたのだが、ついに2004年にウィンター・ソルジャーとして復活。マーベル・コミック史においては、1969年から活躍していたサムこそが長きにわたる“キャプテン・アメリカの相棒”であり、ウィンター・ソルジャーは(劇中の時系列において)スティーブにとってはるか昔からの相棒だったにもかかわらず、登場してからまだ20年ほどしか経っていないため、比較的新しい部類に入るヒーローという位置づけになっている。 ■スティーブと出会い、ヒドラやサノスと戦った こうしたマーベル・コミックにおける前提を踏まえると、MCUにおいてサムがキャプテン・アメリカを継承すべきバックグラウンドを持っていることがよく理解できるだろう。では改めて、MCUにおけるサムについて振り返っていこう。サムはアフガニスタンに従軍した経験がある元アメリカ空軍の兵士。パラシュート部隊に所属していたが相棒の戦死をきっかけに退役し、ワシントンD.C.の退役軍人省でカウンセラーをしていた。軍人時代には状況判断の優秀さと身体能力の高さから特別設計のウィング・パックを装着。空中格闘の訓練も受けていたことから、スティーブ(クリス・エヴァンス)がヒドラによるS.H.I.E.L.D.乗っ取りによって窮地に陥った際には彼に協力し、その能力を存分に役立てた。 その後、特殊能力を持つヒーローを政府に登録する「ソコヴィア協定」をめぐって、アベンジャーズが内部分裂した際もサムは迷わずスティーブの側に立つことを選択。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18)でも政府に追われる立場にいながらスティーブを支え続け、サノスの“指パッチン”にて消失したのち、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)で5年の月日を経てインフィニティ・ストーンによって復活を果たす。サノス陣営との激闘ののち、スティーブがストーンを過去の世界に戻すために旅立ち、彼が年老いた姿で帰還した際に、キャプテン・アメリカを継ぐ者として星条旗に彩られた盾を手渡された。 ちなみに、コミックスでスティーブが一度死亡した際にはバッキーがキャプテン・アメリカを継承。その後、スティーブが生き返ったことで盾は返却される。さらに数年後には、スティーブをキャプテン・アメリカたらしめていた超人血清が効力を失い、一気に老化したことで引退を決意。その時はサムが盾を受け継いでいる。そうした情報を持ったファンにとっては、『エンドゲーム』のラストでスティーブがサムとバッキーのどちらに盾を渡すのかは大きな注目ポイントでもあった。 ■世界が混迷を極めるなか、盾を手放してしまったサム このような経緯から、盾を受け取ったサムがそのままキャプテン・アメリカを引き継ぐのかと思いきや、ドラマシリーズ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」ではキャプテン・アメリカに対するサムの葛藤が物語の中心となった。黒人であるサムは自身がキャプテン・アメリカを名乗ることに重圧を感じ、誰もスティーブの代わりにはなれないという思いから、盾を博物館に寄贈する道を選ぶ。一方、政府からの恩赦によって暗殺者としての罪を許され、一般人となったバッキー(セバスチャン・スタン)は過去に起こした罪の意識に苛まれて孤独な状態に。本作ではかつてキャプテン・アメリカの相棒だった2人が混迷を極める世界で進むべき道を模索し、超人血清をめぐる事件に身を投じていく。 アベンジャーズの活躍で消滅していた数十億の命が復活したものの、このことが世界に大きな問題をもたらしていた。アメリカをはじめ各国では失った人口を補うために難民を移民として受け入れていたのだが、そこに元いた人々が突然戻ってきたため、大勢が行き場を失う状況に。この問題に対処するため発足したGRC(世界再定住評議会)は復活した人々の支援を優先し、難民だった人々を強制的に退去させようとする。こうした難民差別のような状況を目の当たりにし、空白の5年間における“国境なき世界”に戻すことを掲げる過激派組織「フラッグ・スマッシャーズ」が各地でテロ活動を開始。彼らはスーパーパワーを取得しており、その源流は複製された超人血清にあることがわかっていく。 そんな状況下で、政府は独自に新しいキャプテン・アメリカを任命。二代目に選ばれたのは名誉勲章を三度受賞した陸軍士官のジョン・ウォーカー(ワイアット・ラッセル)だった。しかし、精神的に不安定なジョンは、キャプテン・アメリカのスーツと象徴である盾を身につけながら、しだいに過激な行動を取るようになってしまう。 ■スティーブの意思と精神を守るため、キャプテン・アメリカになることを決意 黒人がキャプテン・アメリカを継いでいいのかと思い悩むサムを、バッキーはイザイア・ブラッドリー(カール・ランブリー)という人物のもとへ連れて行く。イザイアはスティーブが氷の中で眠っている間に、政府が複製した超人血清によって生みだされた黒人のキャプテン・アメリカであり、1950年代に活躍し、当時暗殺者として暗躍していたウィンター・ソルジャーと戦ったこともあった。 イザイアと出会ったことで、超人血清を精製するにあたって黒人に人体実験を行っていた過去があったことをサムは知ることになる。これは、かつてアメリカで本当にあった「タスキギー梅毒人体実験」と呼ばれる人種差別事件を基にしており、原作となったコミックス「キャプテン・アメリカ:トゥルース」ではその残酷な実験内容も描かれている。 正義の象徴であるキャプテン・アメリカの称号が政府の便利な道具として利用され、歴史の闇に葬られていた黒人兵士に対する残酷な事実にも直面。超人血清を悪用するフラッグ・スマッシャーズによる社会不安も蔓延するなか、キャプテン・アメリカの名が地に堕ちていくのを止めようと、サムはバッキーと共に立ち上がる決意をする。そして、スティーブが築き上げてきた高潔な精神を守り、イザイアに課せられていた負の遺産を払拭するため、自身がキャプテン・アメリカになる必要があることを理解する。 本作の物語は、キャプテン・アメリカという存在の重要性、その重さが、移民問題や人種差別など現実のアメリカ社会が抱える課題とリンクさせることで構築されている。そして、超人血清に頼らず、生身の人間として能力の限界に挑むように身体を鍛え上げるサムが、新たなキャプテン・アメリカのスーツに身を包み、その象徴たる盾を継承。平和を望み困難な道を歩もうとする彼の行動と強い思いによって、いまの社会にどんなキャプテン・アメリカが必要であるかを示していた。 「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」での戦いを経て、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』では新たにキャプテン・アメリカとなったサムの新たな活躍が描かれていく。ハリソン・フォード演じるサディアス・ロス将軍はアメリカ大統領に就任しており、さらにレッド・ハルクへと変身することも明かされている。アメリカ大統領も絡んでいくなか、キャプテン・アメリカことサムの前にはどんな困難が待ち受けるのだろうか?これまでの「キャプテン・アメリカ」シリーズと同様に、ある種の社会性とシリアスさを感じさせる物語の幕開けを期待して待ちたい。 文/石井誠