エサが不足し始める秋以降に出没リスクは上昇する…!「クマ襲撃マップ」で分かった恐るべき事態
「女性がクマに襲われたとの通報を受けて、警察と消防、猟友会メンバーの総勢20人ほどで山へ入っていきました。現場に着いたとき、まだクマが近くにいる気配があった。だから、威嚇射撃をしたのですが、それでもクマはその場から離れなかったそうです……」 【全国で被害が多発!】恐るべき実態…!戦慄の「クマ襲撃マップ」 同僚たちが直面した「恐怖の瞬間」を振り返るのは、青森県警の関係者である。 6月25日、青森市の八甲田山でタケノコ採りに向かう途中だった80代女性がツキノワグマに襲われ、死亡するという痛ましい事故が起きた。彼らが対峙したのは、このツキノワグマである。 「最終的に互いの距離がじりじりと縮まる中で藪の奥へ逃げたというのですが、その間、30発以上は発砲したそうです。皆、『人間にも銃にも恐怖心を感じないのか』と溜息をついていた」(同前) クマ被害についての注意を呼び掛けていた、青森市環境政策課の担当者も動揺を隠さない。 「地元紙などマスコミにお願いし、さんざん『危険』だと注意喚起していた地点で女性は襲われました。ずっと警戒していましたし、青森市で死者が出たのは初めて。残念という他ないです……」 ◆3倍ほどに増えています クマによる襲撃が後を絶たない。 FRIDAY編集部では、8月5日時点で発生した被害件数をマップ上にまとめている。 統計史上最悪を更新した昨年度の被害者数219人(うち死者6名)に迫るペースで被害が拡大。すでに2名の犠牲を出している。死亡事故の起きてしまった地点は2ヵ所とも山中で、山菜やタケノコ採りに出かけた際に襲われている。 秋田県鹿角(かづの)市では十和田大湯の山林でクマに襲われたとみられる男性の遺体を搬送しようとした警察官2名がツキノワグマに襲撃され、重傷を負うという二次被害も起きた。 ここ数年でクマによる襲撃が急増した理由を、東京農業大学教授の山崎晃司氏が解説する。 「本州に生息するツキノワグマは少なくとも5万5000頭以上、最大で10万頭近くになるとみられます。これは過去最高の数字。数が増えすぎ、生息域も拡大しすぎてしまっているのです。農家の衰退により、畑だった場所が放置されて森に戻り、クマの住み心地のいい場所が増えたことが繁殖につながった。これは東北に多いのですが、人里に繰り返し降りてくるうち、人間にもパトカーのサイレンにも動じずその場にとどまる個体が出てきてしまっている」 一方、北海道に生息するヒグマは’90年以来はじめて推定生息数が減少したと報告されているが、エサを求めて人間の生活圏近くに現れる個体の数は増えている。昨年5月には幌加内(ほろかない)町の朱鞠内湖(しゅまりないこ)で、ヒグマの襲撃による死亡事故が発生した。 30年以上にわたり人里に出没したヒグマと向かい合ってきた、北海道猟友会砂川支部奈井江部会長の山岸辰人氏がその恐怖を明かす。 「いつ陰から飛び出てくるかわからないから、米軍の特殊部隊を相手にするような感覚ですよ。ここ7~8年でヒグマを目撃する機会は――私の肌感覚ですが、3倍ほどに増えています」 ◆秋に「凶暴化」する 人に危害を加えたクマは野放しにするとさらなる犠牲を生む可能性が高い。 「クマは一度人を襲うと、人間は襲っても大丈夫な生き物なのだと学習してしまいます。その様子を子熊が見ていた場合、同じように学習します。人を獲物として襲う、あるいは食害したクマは、理由を問わず迅速に駆除しなければいけません。しかし、それができていないのが現状です」(前出・山崎氏) だが、駆除を担う猟友会は全国的に高齢化が進んでおり、後進の育成にも目途がついていない。駆除の手が足りない中で、我々は危険な季節を迎えようとしている。 「ヒグマの場合、エサとなる木の実がまだ熟していない9月が特に注意が必要です。畑に下りてくる被害が一年でもっとも増えるのが9月なのです」(酪農学園大学の佐藤喜和教授) ツキノワグマによる被害も秋以降に急増すると予想されている。昨年度、全国で最多となる70人が被害に遭った秋田県のベテラン猟師が言う。 「平野に初雪が降ると、ツキノワグマは山へと帰っていきます。その直前、冬眠前にクマは凶暴になります。気温が下がってくるとクマは本能的に『越冬』に向けて動き出す。エサを探そうと活発に動き回る習性があるのです。そこで人間と出会ったときに悲劇が起こる。昨年10月に秋田県北秋田市の市街地で、5人が相次いでツキノワグマに襲われた事件は、この典型例でした」 ツキノワグマは千葉県を除く本州全域に生息している。現在被害が出ていない地域でも、決して油断はできない。前出の佐藤氏が警鐘を鳴らす。 「森から川沿いの緑地を伝って市街地に迷いこんでしまうケースが仙台や盛岡で確認されています。東京でも奥多摩を中心にツキノワグマが生息しています。川伝いに都内に姿を現す可能性は十分にあるのです」 これまでの常識は通用しない。迫りくるクマ被害は、全国共通の危機となっているのだ。 『FRIDAY』2024年9月6・13日合併号より
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