【焚き火の本】心が疲れたら「焚き火」をしよう。炎がもたらす「ゆらぎの効果」とは
焚き火のハウツーと知識を徹底的に解説した〝焚き火実用書の決定版〟『焚き火の本』。 テレビや雑誌で活躍中の焚き火の達人・猪野正哉さんが解説するこちらの一冊から、今回は「焚き火の持つ魅力とその効果」について転載します。 【写真】見ているだけで癒やされる1/fの揺らぎを見る(全9枚)
焚き火には場を成立させる力がある
人々はなぜ、いま焚き火を求めているのか。そこに明確な答えはない。 炎に癒やされる。あえて無駄な時間を楽しむ。自然も満喫できる。 理由は人それぞれ違っていい。私もよく質問されることだが、「そこに薪があるから」と山登りの名言をお借りして、明確な答えからさらっと逃げている。理由を追求してしまったらつまらない。「焚き火をするとなぜか気持ちいいから」で十分だろう。 火を囲むというシンプルな行為は原始の時代から変わっておらず、これだけ文明や遊びが発達しても、いまだに炎の前に座りたくなるのだから不思議だ。 ひとつ言えるのは、「焚き火は万能のコミュニケーションツール」だということ。 一人でも焚いても決して寂しくならないし、仲間と囲めば親睦が深まり、初めましてでも仲良くなれる。たとえ無言になっても、不思議と場を成立させてしまう力が、焚き火にはある。
炎のゆらぎ効果はクセになる
年間100日は火を焚く私でも、ユラユラゆれる炎は飽きることなく見入ってしまう。 近年、ノルウェーの国営放送局が12時間連続で、暖炉で薪が燃える映像を流し、話題になった。ただ火が燃えているだけなのに、視聴率は20%超えを記録したそうだ。以降、YouTubeでも薪が燃えるだけの動画がものすごく増えている。 いままで視聴率を上げるためには、子ども、動物、ラーメンの3大企画が定番だった。ここに、新たに焚き火が加わるかもしれない。早い段階で、私もYouTubeに手を出しておけばよかったと後悔している。 そんな炎のゆらぎがもたらす心地よさやリラックス効果を「1/fゆらぎ」という。身近なものだと海の波や雨音、木漏れ日、川の流れなどもこれに該当する。どれも規則的に動いたり留まっているなかに、予測できない不規則なゆらぎがある。その規則的なものと不規則なものが調和した状態が「1/fゆらぎ」だ。 『ゆらぎの世界』の著者である武者利光氏によると、木目や年輪を見るだけでも同様の効果があり、木目調のカフェや空間が落ち着くのもそのせいだそう。ということは、薪を見るだけでもリラックスできることになる。 また、人間自体もゆらいでいることがわかっていて、外からのゆらぎを得ると共鳴し、自立神経が整えられ、精神が安定する。焚き火の前で、言い争いや、取っ組み合いのケンカが起きないこともうなずける。 焚き火ができなくとも、自宅でロウソクの炎や焚き火アプリを観賞するだけでも気分はリフレッシュできる。仕事で疲れていたり、心が病んでいる人は、炎の前に座って健康な体や精神を取り戻してほしい。もし、炎に見入ってしまっている人がいたら、そっとしておこう。私が飽きないのは、この症状が重篤だからかもしれない。
ソトラバ編集部