「小説と映像、溶け合う境界」新庄 耕×ピエール瀧 『地面師たち アノニマス』刊行記念対談
後藤が使っているのはうさんくさい関西 ( かんさい弁ですというエクスキューズを入れる使命がありました(笑)
瀧 大根さんは電気グルーヴの映画の監督もお願いしたり、その前から普通に友達だったものですから、「瀧さん、今度Netflixで作品やるんで、出てください」と言われた時は、「いいっすよ」と。「何撮るの?」と聞いたら、「『地面師たち』という話です」「あっ、もしかしてあの五反田 ( ごたんだの?」。 新庄 五反田の土地の地面師詐欺事件のこと、ご存じだったんですね。 瀧 知ってました、知ってました。あの当時(事件が起きたのは二〇一七年)、結構なニュースになっていたじゃないですか。ただ、どうしてあんなに大手の不動産会社が騙されたのかとか、どういう手口だったのかとか、謎の部分が多いなとは思っていたんです。大根さんに「事件を基にした小説があって……」と教えてもらったのが、新庄先生の小説との出合いでした。一応、「どっち?」って聞いたんですよ。騙す側なのか、騙される側なのか。「そりゃあもちろん詐欺師側に決まってるじゃないですか」と言われて、「まあ、そうだよね」と(笑)。 新庄 今日は瀧さんに謝りたいことがあるんです。後藤は関西弁、という設定にしてしまって申し訳なかったです。大変でしたよね。 瀧 いえいえ。ただ、大根さんには最初に言いましたけどね。「関西弁なの? 標準語になんない?」「いや、それは原作の小説がそうなんです。ダメです」。今、ネットですっげえ叩 ( たたかれてますもん、瀧の関西弁がヘタ過ぎるって。 新庄 でも、ネットの反応を見ていると、瀧さん、大人気ですよ。Netflixさんも公式Xで、瀧さんが言う「もうええでしょう」のまとめ動画を出しているじゃないですか。とんでもないバズり方ですよね。あのセリフ、原作小説では一度も出てこないんです。 瀧 「もうええでしょう」問題、ここで記録してもらっていいですか(笑)? あんなにバズりましたけど、僕もバズるとは思ってないし、たぶん大根さんも思ってなかったんです。むしろ僕、やめませんかって言ったんですよ。やっているうちに言い過ぎじゃないかなと感じてきて、撮影時に「何か他の文言に変えません?」と。大根さんは「あ~」なんて言いながら全然代替案は出てこずで、最後までいったらこうなりました。 新庄 流行語大賞、取るんじゃないですか。他のやつは世間的にも厳しいじゃないですか。ハリソンの「最もフィジカルで最もプリミティブでそして最もフェティッシュなやり方でいかせていただきます」とか。「もうええでしょう」は、子供からお年寄りまで安心して使えます(笑)。 瀧 たまに一般の方とかに「瀧さん、『地面師たち』面白かったですよ!」と話しかけられるんですけど、向こうは明らかに「もうええでしょう」を聞きたがってるんですよ。それがキツい(苦笑)。関西弁の正確なイントネーションをもう忘れちゃっているので、野良ではうまく言えないんです。撮影の時は方言指導の方が現場にいらっしゃって、教えていただいたメロディー込みでセリフを覚えてやっていたんですよね。ただ、セリーヌ・ディオンの曲をずっと聴いているからって、セリーヌ・ディオンと同じには歌えないじゃないですか。関西弁、自分ではできていると思っても、完璧に再現するのは相当難しかったです。違和感があるという関西弁ネイティブの人にオススメしているのは、スペイン語かドイツ語で観てくれ、と。一切気にならなくなりますよ、と。それができるのがNetflix。 新庄 いっそ、馴染みのない言語で(笑)。 瀧 トルコ語とかどうっすか、みたいな(笑)。 新庄 後藤を主人公にした短編(「ランチビール」)では「エセ関西弁」って表現を入れたんですが、一作目を書いた時からそういうイメージだったんですよ。僕は、親は関西出身ですけど、自分はずっと東京育ちなので関西弁の正確なニュアンスは分からない。ネットの「なんJ民」が使っているような、うさんくさい関西弁設定ではあったんです。後藤はそういう設定なんですというエクスキューズを入れるのが、『地面師たち アノニマス』の使命の一つでした(笑)。 瀧 僕はシンプルに、「また関西弁じゃん!」と思いました。映像のほうでも続編なのか何なのか、あるかもしれないじゃないですか。僕、現場に来た新庄先生に言いましたよね。「次は関西弁じゃないのにしてください」って(笑)。 新庄 すみません。標準語から関西弁に切り替わるところを書けばよかったかもしれないですね(笑)。