「ハイキュー!!」誕生から原作者・古舘春一の強みまで。初代担当編集に聞く、ふたりが歩んだ日々
週刊少年ジャンプで2012年2月から2020年7月まで8年半連載された人気スポーツ漫画「ハイキュー!!」。TVアニメ化され、これまで4シーズンにわたって放送・配信されてきた物語の続編が『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』として全国の映画館で公開中だ。 【写真を見る】『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』でスポットが当たる音駒のセッター・孤爪研磨 バレーボール=排球で全国制覇を目指す高校生たちの青春を描いた「ハイキュー!!」。春の高校バレー宮城県大会を勝ち抜いた主人公・日向翔陽が所属する烏野高校バレー部は、春高1回戦で椿原学園、2回戦で優勝候補の稲荷崎高校を破り、因縁のライバル・音駒高校との戦いに挑む。両校の名前「カラス」「ネコ」から「ゴミ捨て場の決戦」と呼ばれるこの対決は、原作でも高い人気を誇るエピソード。TVアニメシリーズを楽しんできたファンにとっても待望の一戦となる。 2月16日より公開されるやいなや、初日3日間での興行収入22.3億円、動員152万人という、2024年公開作品でNo.1の初週興行収入を記録し、その後も興行収入100億円超えも目指せる大ヒット街道を爆進中の本作。今回、原作者の古舘春一と共に連載を立ち上げた週刊少年ジャンプ編集部の本田佑行氏にインタビューし、「ハイキュー!!」の誕生裏話から作品に込められた情熱に迫った。 そもそものきっかけは、すでに社会人として働いていた古舘が編集部に原稿を持ち込んだこと。そこからすべてが始まったと言う。「古舘先生は高校までバレーボールをやられてきたものの不完全燃焼で、大好きなバレーボールと今後どういう関わり合い方をしようかなと考えられたみたいです。そのなかで、絵が得意だし漫画も好きだから漫画でバレーボールを描いたらどうなんだろう、というところが一つモチベーションになったと。なので、古舘先生は漫画家になりたいんじゃなくて、“バレーボール漫画を描きたい”っていう方なんです」 ■「ずっとバレーボール漫画がやりたくて漫画家となった方なので、何とか長く続けられるような作品に」 そこでいきなり「ハイキュー!!」の連載がスタート、というわけではなく、必要なステップをふんでいく必要があった。「バレーボールを漫画にするのは非常に難しいんです。バレーボールに限らず、それぞれのジャンルや作品によってそれぞれの難しさは当然あるんですけれども、スポーツ漫画は必殺技をドン!と出して相手を倒して…というわけにはいかないですから、キャラクターの魅力や日常生活のおもしろさ、セリフや演出のキレなど、総合力が求められるジャンルなんですよね」 「そこで、先生とお互いに、まずはちゃんとキャラクターの描き方をどんどん覚えていこう、演出もどんどん覚えていこうとレベルアップしていって、『いま描ける時かな』というタイミングが来た時に描きましょうとお話ししていました。別の連載が終わったところで、『いまかな』と思うタイミングだったので、とりあえず読み切りをやってみようと。ただ、ずっとバレーボール漫画がやりたくて漫画家になられた方なので、何とか長く続けられるような作品にしなくちゃという気持ちはずっとありましたね」。 ■「古舘先生の根っこにあるのは、人間や物事に対する非常に誠実な観察眼と、すべてに対する細やかさ」 「ハイキュー!!」の魅力といえば、読者の胸に迫る生き生きとしたキャラクターたちと彼らから発せられる強いセリフ。それらはどのように生まれていったのだろうか?「古舘先生が漫画家になる前に働いていたデザイン事務所でスーパーのチラシのイラスト描いたそうなんですが、その時の上司にめちゃくちゃ怒られたらしいんです。『これはお前が描きたい絵であって、お客様に見せたいクライアントさんがほしいものじゃない』って言われて、めちゃくちゃ悔しかったんですって。怒られた後にたくさん描いて、ようやく最後に『これはちゃんとクライアントさん、お客様がほしい絵になってるね』と言われたみたいなんです」 「その当時は悔しい思いをされたそうなんですが、『いまになって思えば、このことがお客様を意識した絵を描くことのスタートになった気がします』というようなことを先生はおっしゃってましたね。そもそも先生は絵がうまくてセリフも強いし、演出も上手で…凄まじいパラメーターを持っている作家さんだと思うんですよ。その根っこにあるのは、人間や物事に対する非常に誠実な観察眼と、すべてに対する細やかさという気がしますね。キャラクターが薄っぺらいとかバレーボールに対する扱いが薄っぺらいとかそういうことがなく、軽んじているようなところがまったくないんです」。 ■「古舘先生もアニメーションのことをすごく信頼してくださっている」 そうして誕生した漫画「ハイキュー!!」はTVアニメとなり、そして劇場版になった。物理的に動くことのない漫画から、音も動きもついてさらに大スクリーンへ。「先生は喜んでらっしゃいましたね。アニメーションのことをすごく信頼くださっていて、『アニメーションが一番いい形だといいと思います』というふうに常々おっしゃってくださっているので」 「やっぱり、媒体が異なれば表現の最適解は変わってくるので。漫画だったらこの表現でOKだけれども、でもそれはアニメーションの時間に置き換えたらそんなに長く割けないよねとか、本来出したかったニュアンスが出せないなら、違う形でそのニュアンスを出せる方法を考えるべきだと思うんです。それは『ハイキュー!!』の根っこみたいなところを違う媒体で表現をするという意味においてやるべきことで、原作漫画の構成をそのままにすること=原作を大切にしていることでは決してないはずなんです。原作はかなり情報量が多い漫画だなと思うので、アニメになると、スピード感を出しながら、かなり絞っていく作業が多かったのかな、と。理想はTVアニメや劇場版で『ハイキュー!!』を観た時に、原作漫画が再現されていると受け取ってもらいつつ、実はよく見たら表現が変わっているというのが一番ですよね」。 取材・文/編集部
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