昨年の分も…兄のグラブで躍動 中京大中京・杉浦選手 選抜高校野球
2020年春夏の甲子園大会が中止となった兄や先輩たちの分までと2年分の思いを背負って臨んだ大会だった。第93回選抜高校野球大会第10日(31日)の準決勝。準優勝した1997年以来24年ぶりの決勝進出を目指した中京大中京(愛知)の杉浦泰文選手(3年)はこの日も、同校を今春卒業した兄・文哉さん(18)のグラブを手に左翼を守り、飛球を4回がっちり捕球するなど兄の思いと共に夢舞台で躍動した。 【明豊vs中京大中京】大熱戦の準決勝を写真特集で 兄は、優勝候補の一角と目されながら、新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止となった昨年のセンバツに出場予定だった。兄の思いが形になったのは、4強入りを懸けた29日の準々決勝。五回裏、左翼への打球を兄のグラブでダイビングキャッチし、見せ場を作った。「(兄の力も)少しはあったのかなと思います」。試合翌日、杉浦選手は少し照れくさそうにはにかんだ。 兄の背中を追い、少年野球クラブからずっと同じチームで、野球をしてきた。センバツに続き、夏の甲子園中止。普段にぎやかな家族の食卓で黙り込む文哉さんに、声をかけることができなかった。昨年8月、センバツに代わる夏の交流試合で、先に甲子園の舞台に立った文哉さんを、スタンドから応援した。「緊張して自分のやりたいことができなかった。(弟には)その分も頑張ってほしい」。グラブは、交流試合後に譲り受けたものだ。 160センチ、62キロとベンチ入りの中では一番小柄だが、50メートルのタイムは5・9秒とチーム一の俊足だ。「平凡なゴロでも全力で走ったら、相手の守備にプレッシャーがかけられる」。2番打者として「足を武器」にした攻撃で、チームに貢献してきた。 文哉さんは、進学先の大学の野球練習と重なり、自宅のテレビで試合を見守った。「結果ばかり求めると逆に打てなくなる。楽しんでこいよ」。初戦後、弟に「LINE」でメッセージを送った。その言葉通り杉浦選手は2回戦、4安打1打点、甲子園での初盗塁も決め、チームの勝利に大きく貢献した。「初戦は結構緊張していたが、本当に楽しめた」 この日の準決勝でも、一回の初打席で四球を選んで出塁し得意の足を生かして盗塁を決めると、五回にはチーム初得点となる適時打を放ち反撃の口火を切るなど活躍した。 九回に1点差まで追い上げたが断ち切られた。55年ぶりの頂点まであと一歩だった。前回の優勝は、1966年に祖父の故・藤文(ふじふみ)さんが監督として導いたものだ。藤文さんは59年、選手としてもセンバツに出場し優勝している。「優勝して祖父の見た景色を見たかった」。悔しくもあるが、祖父や兄と同じ場所に立ち、「甲子園はすごく楽しかった」。この楽しさをもう一度味わうため、夏に向け一歩ずつ前に進むつもりだ。 【酒井志帆】 ◇決勝戦もライブ中継 公式サイト「センバツLIVE!」では、決勝もライブ中継します(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2021)。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/senbatsu/)でも展開します。