アサヒビール「ミニ樽」斬新な青春ドラマ演技見せた真行寺君枝「映画の撮影のような熱気がありました」【夏のCM美女】
僕らの少年時代を彩ってくれた1970~1980年代の「夏のCM」。海外撮影も当たり前だった当時の撮影秘話を、あこがれの出演者たちが明かしてくれた! 【画像あり】「ミニ樽」CMで透明な美貌が知れわたった 真行寺君枝は、モデルとして中学生でデビュー。当時、ポーラ化粧品のCMでは、森の妖精に扮して踊ったという。 1976年、16歳で資生堂秋のキャンペーン「ゆれる、まなざし」のモデルに抜擢。高校卒業を機に女優へ転身したが、それもCMが縁だった。 「『ゆれる、まなざし』のヘアメイクをしてくださった渡辺サブロオさんに、プロダクションを紹介してもらいました。モデルって、もともとしゃべらないけど、そこに声が加わってくるのが女優はすごく大きな違い。最初は戸惑いました」 1979年に、故・山田太一氏脚本のドラマ『沿線地図』(TBS系)で大役を射止め、1981年の村上春樹氏原作の映画『風の歌を聴け』ではヒロインを務めた。そんな、女優として着実なステップを歩み出した1980年、アサヒビールの「ミニ樽」のCMに登場。その透明な美貌が、お茶の間にも知れわたった。 「共演は風間杜夫さん、柄本明さん、たこ八郎さんでした。当初はコント風でしたが、翌年には平田満さんらも参加し、それまでのCMの常識を覆すような、青春ドラマ仕立てになったんです。実際に、現場は映画の撮影みたいで、熱気がありました」 1980年夏季放映のCMは、こんな内容だった。縁側が見える和室で、眼鏡をかけた風間と、浴衣姿の真行寺が並んで座っている。風間が「わたくし知性的に」とビールを注げば、真行寺が「わたくし野性的に」と注ぐ。すると、風間が「知性と野性の結合、あん」と悶えて突っ伏す。そこへ真行寺が「バッカ」とつぶやく。 「全体のプラン及びコピーは当時、電通に所属していた杉山恒太郎さん(現・ライトパブリシティ社長)でした。青春編のバックに流れた曲は、杉山さんにとっての懐メロなんです」 使われたザ・サベージの『いつまでもいつまでも』、ザ・ジャガーズの『君に会いたい』は、1966~1967年発売の楽曲。たった15年前の曲が妙にレトロで、青春編で真行寺が扮した大学ラグビー部のマネジャーらしきマドンナも、往年の映画から飛び出してきたように純真だった。 「素の自分ではなく、演じてはいたんです。でも、キャストやスタッフのみなさんには、CMでのキャラクターのようにかわいがっていただきました(笑)。風間さんとはその後もご縁があって、私の初の主演舞台『クリスティーヌ・その愛のかたち』もご覧いただいたんです。楽屋にあいさつに見え、涙を流して感激してくださり、ご自身が主演する舞台『美しきものの伝説』で共演させていただく機会へとつながりました」 そこで風間はアナキストの大杉栄を、真行寺は内縁の妻の伊藤野枝を演じた。変わらず清楚な真行寺の内面には、伊藤のような“野生”が潜んでいる。それが如実に形を成したのが、2010年からの「劇団クセックACT」への参加だった。 「名古屋を拠点に活動し、設立以来、一貫してスペインの劇作家の作品ばかりを取り上げ、舞台の造形美といい、見事な反リアリズムの劇的空間を作り出しているんです。そこで3年間、勉強し、鍛え直していただきました」 発声ではとくに厳しい指導を受けたというが、元から、ややビブラートのかかった真行寺の声には独特の魅力がある。その美声を活かし、クイズ番組『今夜はナゾトレ』(フジテレビ系)のナレーターは、現在まで約8年続けている。 しんぎょうじきみえ 1959年生まれ 東京都出身 1976年の資生堂CMでモデルとしてブレイクし、1978年に女優デビュー。代表作に映画『風の歌を聴け』『櫂』、ドラマ『四季・奈津子』(TBS系)など。2016年に化粧品会社「うつくしく」を創業。オールインワンジェルクリーム「ディオティマ」を販売中。モデル時代から培った審美眼を、ブログ「美学」、公式YouTubeチャンネル「KIMIE cooking」で披露している 取材/文・鈴木隆祐
週刊FLASH 2024年8月20日・27日合併号