地下にもう1本の川を 豪雨対策で東京都が事業化検討 地下鉄浸水など被害深刻化
台風や線状降水帯による豪雨で河川の氾濫などが懸念される中、東京都が「地下河川」の建設を計画している。既存の地下調節池を地下水路でつなぎ、東京湾に放流する構想で、大量の雨水をためることなく海に流せるため、激甚化する豪雨災害に対応できる。川に放流する地下河川の整備は大阪府でも進むが、専門家によると、海への大規模な放流は世界でも珍しく、都は慎重に事業化を検討している。 【表でチェック】都が検討する地下河川のイメージ ■40年前に構想浮上 都が検討する地下河川は、現在運用中の白子川地下調節池(練馬区大泉町~同区高松・3・2キロ)と神田川・環状七号線地下調節池(中野区野方~杉並区和泉・4・5キロ)を結び、さらに設計中の目黒川流域調節池(杉並区~世田谷区)から海まで約15キロの地下河川を整備するものだ。 地下河川で海につなげた場合と、都内20カ所に箱形の地下調節池を新たに設置した場合の被害を検証すると、床上、床下浸水が計987棟に上った令和元年の東日本台風のケースでは、地下河川の方が都内の浸水面積は56%軽減されるという。 地下河川の方が地下調節池を新設した場合よりは用地面積や事業費、工費が低く抑えられるため、都は「効率的かつ効果的な整備手法の一つ」と評価する。 地下河川の構想は、昭和60年に当時の鈴木俊一都知事が、都議会の所信表明演説で打ち出した。都市型水害に対処するため、地下に巨大な調節池を設置すると表明した上で、「将来、区部各河川の地下調節池群を連結させ、放水路として利用する地下河川構想の第一歩となる」と述べた。 その後は景気悪化とともに、大型の公共事業が敬遠され、都議会などでも言及されることはなくなった。ただ、小池百合子知事が令和3年の都議会の所信表明演説で「将来の地下河川化を含めて延伸の検討を進める」と表明。その後も記者会見などで「もう1本地下に川をつなげる」と意欲を見せている。 ■想定上回る整備必要 近年は都内でも短時間で集中的に雨が降るケースが多い。昨年は大雨警報の発令で都水防本部は8回立ち上げられたが、今年は9月1日時点で倍以上の18回に上る。都の担当者は「年々雨の降り方は激しくなっている」と河川の氾濫を危惧する。 都はこれまで、豪雨対策として、河川を拡大することで流量を増やす▽増水した川の水を調節池で一時的に取水する▽河川や下水道に雨水が流れ込まないように雨水浸透施設を設置-の3つの方法で河川などの整備計画を進めてきた。その際、1時間雨量計75ミリまでの対応を想定していた。