「今後数十年で、地球外生命が見つかる」 JAXA川口淳一郎シニアフェロー
月を超えて火星、さらにはその先へ ── わたしたち人類は、一体、宇宙のどこまで行けるのだろう。小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトリーダーをつとめた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の川口淳一郎シニアフェローは、「今後数十年で、宇宙活動は科学の面で大きく転換する」として、地球外生命の発見や極超音速機の登場を予測するとともに、後進の人々に「見えない未来を語る」という自らの責務についても語った。 土星の衛星に生命の可能性ってどういうこと?
今後数十年で、地球外生命体が見つかる
たとえば、今後数十年で、太陽系内において地球外の生命体が何らかの形で見つかるでしょう。もう、確実に見つかります。 環境条件が厳しいから生物は生き延びられないのではないかという声もありますが、まったくナンセンスも良いところです。地球上だってとんでもなく厳しい環境であっても生物が見つかる場合があるのです。太陽系外から飛んでくる粒子に生命の種のようなものが入っていてもおかしくありません。 見つけるために必要な技術や道具は、すでにそろっています。火星などに探査機を飛ばして、その場で探査すれば良いのです。個人的には、明らかなゴールが描けるのになぜ誰もやろうとしないのか、と思います。もっとも、たとえ地球外生命を見つけても産業や経済には影響がなさそうなので、どの国も取り組まないのかもしれませんが。 地球外生命の発見に加えて、地球外の資源が注目される時代も、同じく数十年で来るのではないかと思っています。
ロケットをまだ作り続けるのか
宇宙活動に関する技術については、「ロケットをまだ作り続けるのか」、と言いたいですね。 ロケットの姿を想像してください。その約2/3は、第1段ロケットです。要するに、燃料と酸化剤を積んだタンクが飛んでいるだけであり、効率の悪い乗り物の代表なのです。 また、ロケットエンジンは、性能をギリギリまで引き出して使いますので、複数回の使用に耐えうるものではありません。飛行機のように何度も使用するためには、そうしたハードな使い方ではなく、もっと軽く扱う技術が必要です。それは、ロケットエンジンではありません。 私は、ロケットに代わって、マッハ5以上で飛べる極超音速機に宇宙船を乗せ、約3万mの上空で切り離して宇宙へ行く時代が来ると考えています。極超音速機が、今の第1段ロケットの代わりになるのです。 ただ、極超音速機については、宇宙にモノを運ぶためだけではなく、まずは、地球上における高速の交通機関として開発すべきだと考えています。極超音速機なら、東京と米国のロサンゼルス間を大体2時間ほどで結べます。ファーストクラス程度の運賃で利用できれば、十分ビジネスになるのではないでしょうか。まずは、そうした“地上”のニーズを見て開発し、次に宇宙活動に活用する、という流れで進むでしょう。 技術的には難しい面も多く、一国での開発には限界もありますので、世界各国の共同開発になるとみられます。その中核に日本がいてほしいですし、いるべきです。極超音速機用のエンジンとしては、ジェットエンジンの一種であるラムジェットエンジンの採用が想定されており、JAXAでも研究開発に取り組んでいます。極超音速機の登場および宇宙活動への活用も、21世紀中に起こる大きなイベントになるのではないかと考えます。 宇宙観測や惑星探査などの拠点として、深宇宙港も将来的には作られるでしょう。100年くらいでは実現しないかもしれませんが、必要な技術や需要の高まりがあり、求められる時代が来れば作られるでしょう。これは、何も突飛な想像ではなく、現実的な予測で言っているのです。 一方、いつか火星に人類が行く時代は来るでしょうが、たとえば南極基地のような研究施設はできても、火星上に都市や産業が生まれるとは考え難いですね。観光センターのようなものなら経済的に成り立つかもしれませんが。
現在進行形の技術を目指すと志が低くなる
次世代の若者には、次に何をめざすべきか、ちゃんと語った方が良いと考えています。たとえば、「はやぶさ」でも採用されたイオンエンジンについて、ニュースか何かで知った中学や高校、大学生が、「自分もイオンエンジンに携わりたい」とあこがれても、手遅れなんです。現在進行形の技術を目指すと、志が低くなります。語るべきは未来です。 未来の姿は今現在、目で見られません。しかし、地球外生命しかり、極超音速機しかり、見えないながらも、当然そうなっていくであろうと予測される未来を、説得力のある文言でしっかりと伝えねばならないと思っています。 (取材・文:具志堅浩二)