【最新ビジネスレポート】丸亀製麺vs.はなまるうどん…2大うどんチェーン「コシのある!」頂上決戦
「釜揚げうどんが間もなくあがります!」 威勢の良い声が響き渡る丸亀製麺神田小川町店。3月末、東京都内にあるこの店舗では「麺職人全店配置記念」の特別営業が行われていた。記者とともに同店を訪れたフードジャーナリストの長浜淳之介氏が話す。 【強みと弱みがひと目でわかる】"マーケティング"か"本場"か…「最新!うどんチェーン頂上決戦」 「丸亀製麺では、全ての店舗で粉からうどんを作っています。今回のイベントは、同社の合格率3割と言われる厳しい麺打ちの試験をくぐり抜けた″麺職人″たちが、全国に838ある店舗全てに誕生したことを祝うためのもの。今日のスタッフ12人は、選りすぐりの麺職人です」 なるほどたしかに、麺を打っているのも、茹でているのも、天ぷらを揚げているのも、レジを打っているのも、襟元が紺色の制服を身に着けている麺職人たちだ。この日のメニューは釜揚げうどん、醤油うどん冷、かけうどん温がセットになった「三種の利きうどん」(500円)のみ。どれもシンプルな味付けだけに、出来立てのうどん本来の食感や香りを存分に堪能できる。醤油うどんを満足そうにすすりながら、長浜氏が続ける。 「丸亀製麺を運営するトリドールは、もともとは’85年にオープンした兵庫県加古川市の焼き鳥屋。香川の会社でもなければ、うどんや製麺を専業にしていたわけでもないんです。しかし、創業社長の粟田貴也氏(62)には、とある大きな原体験がありました。それは父の故郷であった香川県丸亀市の、看板もないような小さな店で食べた出来立てのうどんの衝撃的なおいしさでした。この体験をベースに、『手作りの麺をその場で食べてもらう』というコンセプトのうどんチェーンを作ったのです」 当時、うどん業界には大型チェーン店がなかった。粟田氏は、あの原体験を全国の人々に広めるべく、’00年11月に第1号店である「丸亀製麺加古川店」をオープンして、うどん業界に参入したのである。以降は郊外のロードサイド店舗を中心に、ショッピングモール内のフードコートや都心部のビルイン型店舗も展開するなどして、勢力を拡大していった。’04年に鳥インフルエンザが流行したこともあり、トリドールの主力事業は焼き鳥からうどんへと完全移行したのだった。 「丸亀製麺は’09年に店舗数1位に躍り出ると、以降は業界のトップを走り続けていましたが、’17年後半あたりから既存店の売り上げが低迷しはじめ、来客数も前年度割れを繰り返すようになりました。似た業態の店が乱立し、競争が激化していたのです。粟田氏も起死回生の一手を模索してはいたのですが、それにも限界がありました。そこで助太刀を依頼したのが、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの再建などで名を挙げた天才マーケターの森岡毅氏(51)でした」(同前) 森岡氏率いるマーケティング集団「刀」が目をつけたのは、粟田氏の原体験である「出来立て」の演出だった。それまでの、「顧客から見えない裏方で麺づくりに励む」というレイアウトを一新。 店舗に入ってすぐに、製麺機と麺を茹でる大きな鍋が目に飛び込んでくるようにすることで、「うどんは生きている」というライブ感を演出したのだ。この戦略が功を奏し、刀がマーケティングを担ってからわずか4ヵ月後、来客数が前年同月比でプラスを記録したのだった。 創業者の情熱と、それを形にする抜群のマーケティング力。この相乗効果で丸亀製麺は現在、業界内で圧倒的な王者としての地位を確固たるものとしている。 そんな王者を追うのは、本場讃岐への並々ならぬリスペクトを原動力とするはなまるうどんだ。’09年度に業界シェア1位に輝いたかつての王者の創業は、奇しくも丸亀製麺と同じ’00年のこと。はなまるうどんの設計を務めた経験を持つ飲食業プロデューサーの須田光彦氏が話す。 「丸亀製麺が兵庫を発祥とするのに対し、はなまるうどんは香川県で産声を上げました。香川ではスタンダードな業態であるセルフ式(天ぷらやトッピング、出汁などを自分で取って楽しむ形式)のうどん店を全国に広めたいというのが、創業者である前田英仁氏の願いでした。 そんな中で迎えた創業3年目、まだ西日本に数店舗ほどしか展開していなかった状態で、いきなり東京のど真ん中、渋谷公園通りに出店。この大勝負が大当たりしたんです。当時、東京に本格的な讃岐うどんの店は少なく、セルフ式のセンセーショナルさも相まって瞬く間に人気店になりました。当時は月商2000万~3000万円くらいあったのではないでしょうか。この成功を機に、関東圏でのフランチャイズ展開を始めたのです」 ◆はなまるの誤算 ところが、はなまるうどんはこのFC展開に苦戦した。急拡大に、オペレーションの整備が間に合わなかったのだ。 「近年ではいきなりステーキが急拡大で失敗しましたが、過去のはなまるうどんも似た状況にありました。人材育成が不十分で商品の提供が遅れ、温度管理も甘く、クレームが寄せられていたのです。こんな状態では繁盛するはずもなく、会社が傾くほどのピンチを迎えました。前田氏は自身の保有する株を牛丼チェーンの吉野家グループに売却し、’12年に完全子会社となる道を選びました」(同前) はなまるうどん低迷の理由はもう一つあった。それは、「讃岐うどん」へのこだわりだ。前述のとおり、丸亀製麺は香川県丸亀市発祥ではなく、味付けも讃岐うどんとは異なるため、本場・香川県民から否定的な眼差しを向けられることが多かった。しかし、はなまるうどんは本場の味にこだわった。 「讃岐うどんの定義は、『讃岐(香川県)で作られたうどん』というもの。したがってはなまるうどんは、香川で作った麺を関東の店舗に配送していた。ところが、コシと弾力が持ち味であるはずの麺が、長旅によって乾燥し、劣化してしまうケースが相次いだのです。これでは本来の讃岐うどんの味とはほど遠く、顧客の納得いくクオリティを担保できない。以前、私がはなまるうどんの設計を担当した際も、とある社員に『香川で作るというのがウチの命なんだ』と言われました。それだけ本場へのリスペクトが強いのです」(同前) はなまるうどんは吉野家傘下に入ってから麺の製造拠点を全国5ヵ所に増やし、麺の質向上を選んだ。しかし、「麺の質は丸亀製麺のほうが高い」というイメージを払拭することはできず、現状では丸亀製麺に大きく差をつけられている。状況を打開するため、近年では「プリキュア」「ポケモン」「シン・仮面ライダー」など人気コンテンツとのコラボも実施しているが、効果は不透明。前途多難に思えるはなまるうどんが、丸亀製麺に勝っているポイントはあるのだろうか。B級グルメ探究家の柳生九兵衛氏はこう話す。 「丸亀の出汁は甘めで醤油の風味が強いのに対し、はなまるは出汁本来の味を活かしていて、私の好み。また、自分で出汁を注げる店舗が多く、天ぷらを揚げる際に出る『揚げかす』を天かすとは別にトッピングできるのも嬉しい限りです。私のように、トッピングも豊富でアレンジの自由度が高いはなまるファンは多いと思います」 マーケティング力か、本場の味か。インフレ時代の’24年、うどんチェーンの頂上決戦は、私たちが思うよりもコシのある争いになっているのかもしれない。 『FRIDAY』2024年4月26日号より
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