名古屋場所担当部長時代の大島親方（左から２人目）ら=2005年6月

　大相撲の大関旭国として活躍した元大島親方の太田武雄（おおた・たけお）さんが22日、病気のため東京都墨田区の自宅で死去した。77歳だった。 　弟子が「師匠を喜ばせたい」と稽古に励むことも、強くなる大きな要因だと感じさせてくれたのが親方だった。とにかく人間味のあふれる人だった。 　親方が巡業部長だった2008年の米・ロサンゼルス巡業。私も親方の魅力に引き込まれた1人となった。 　朝食後の力士取材をするため、ホテルのレストラン前で待機をしていると、親方が午前7時に姿を見せた。 　ところが10分後には朝食会場からスタスタと引き揚げていく。「もう食べたんですか」とたずねると、「食べてない。ようすを見に来ただけ」と一言。続けて「まだ朝食の時間じゃないから」と言って腕時計に目をやった。アナログ式のそれはしっかりと日本時間のままだった。 　ロスと日本の時差は16時間ある。「日本時間で生活しないと体によくないからね」と、最後に訳の分からない理由を告げて部屋に戻る親方の背中を、ポカンと眺めるしかなかった。 　突っ込みどころがありすぎる。その日から、親方は大丈夫だろうかと気になって仕方なかった。 　そんなところが誰からも愛された。指導の天才とはこういう人のことを言うのだろう。（大相撲担当、岸本隆）