「月9」が今期最大の目玉になっている…『silent』も手がけた「若き脚本家」が天才と言えるワケ
ディテールへのこだわり…神は細部に宿る
『silent』はいい意味でストーリーの進行の遅さも特徴であり魅力。 ゆっくりじっくり話が進むので登場人物たちの心の機微が丁寧に描かれており、視聴者はより深く共感、没入できるのです。 序盤から終盤までのあらすじをざっくり解説すると、まず紬と想が再会し、湊斗が二人のためを想って身を引き、奈々が想への恋心に決着をつけ身を引き、想が改めて自身の障害と向き合って――というたったこれだけのストーリー。 サクサクと物語を進めていけば、2時間映画でおさまるんじゃないかと思うぐらい、劇中の出来事は少なめ。ですがそのスローリーな展開だからこそ、四人の感情の推移を繊細に描けているのです。 また、作品をメタ的視点で考えた場合、いわゆる当て馬キャラである湊斗と奈々にも“やさしい”のも特徴。 多くの恋愛ドラマでは、当て馬は主役二人の恋愛成就のための踏み台でしかなく、その人物の心情に寄り添った演出やエピソードは、ささっと短く適当に扱われることも少なくありません。 しかし『silent』では、第4・5話は湊斗にフィーチャーした回となっており、丸々2話分使って彼が身を引くまでの過程がじっくり描かれました。第6・第7話は奈々にフィーチャーしており、特に第6話は冒頭から約15分間もの長尺で、奈々と想の出会いの回想シーンが描かれました。 当て馬キャラにも深く感情移入させられる構造となっているため、視聴者は紬と湊斗が同棲を始めて幸せに結婚する世界線も想像して複雑な心境になったり、奈々の悲しみや怒りといった心のなかの澱(おり)が消え去る瞬間に涙腺を刺激されたりしたのです。 「神は細部に宿る」という言葉がありますが、『silent』はまさにソレ。ディテールにこだわり抜いたシーンが随所に散りばめられ、登場人物たちの心情を深く深く掘り下げていくため、毎回ズシン…と胸に響く切なさがヤバすぎる。 こうして『silent』は令和の恋愛ドラマを語るうえで欠かせない名作に“成った”のでした。 では、2023年放送のドラマ『いちばんすきな花』はどうだったのでしょうか。 後編記事『『silent』級の感動が再び…月9新作『海のはじまり』に最大の注目が集まる「納得の理由」』で詳しく解説します。
堺屋 大地(恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー)