「月9」が今期最大の目玉になっている…『silent』も手がけた「若き脚本家」が天才と言えるワケ
『silent』は人間の弱さや醜さを描いた
まずは2022年放送の『silent』。 主人公の紬(川口春奈さん)が、中途失聴者となっていた高校時代の元彼・想(目黒さん)と、音のない世界で“出会い直す”というラブストーリー。 高校卒業後に別れて以来8年ぶりに再会し、手話を通じて関係を再構築していく紬と想。そして二人の高校時代の同級生で、紬と3年前から付き合っていた湊斗(鈴鹿央士さん)、想に片想いする生まれつきの聴覚障害を持つ奈々(夏帆さん)が絡んできます。 視聴者を惹き付ける魅力となっている要素は多々あるのですが、恋愛コラムや恋愛カウンセリングを生業にしている筆者の琴線にもっとも触れたのは、人間の弱さや醜さの描き方。 『silent』は初回から一気に物語に引き込まれるのですが、とりわけ第1話のラストが秀逸。紬と再会してしまった想が、涙ながらに手話で語る言葉の数々が狂おしいのです。 ≪声で話しかけないで 一生懸命話されても 何言ってるかわかんないから 聞こえないから 楽しそうに話さないで 嬉しそうに笑わないで≫ ≪なんで電話出なかったのか 別れたのか これでわかっただろ? ≫ ≪好きだったから だから 会いたくなかった 嫌われたかった 忘れてほしかった≫ ≪うるさい お前 うるさいんだよ≫ 手話で一気にまくし立てる想。 紬に意味が伝わっていないことを承知で手話を使い続けるのですが、その言葉がとにかく情けない。紬だって辛い気持ちを押し殺し、無理して笑顔を作っていたのに、恨み節のような言葉を乱発。耳が聞こえない彼の≪うるさい≫は、あまりに重い。 一方的にフラれただけで一切非はない紬に対して、彼女は意味がわからないとはいえ鋭利な言葉を浴びせる想は、障害で苦しんでいるとはいえ、どこか自己中心的で弱い人間に見えました。ただ、それが恋愛の芯を喰ったリアリティさとなっており、とてつもなく切ないのです。 えてして恋愛ドラマは真っすぐで精神的に“強い”二人が結ばれたり、美辞麗句ばかり並べたりしがち。筆者的にそんな“きれいごと”だらけの物語は食傷気味になっていたため、きちんと人間の脆さや嫌な部分を見せていく『silent』が胸に刺さったのです。