デンゼル・ワシントン、ホームレス救出からハリウッドの光と影まで貫く信念
ウィル・スミスが起こしたアカデミー賞でのビンタ事件も記憶に新しい。司会のクリス・ロックにビンタをかまして動揺するウィルのもとへ、いち早く駆けつけたのはデンゼルだった。そしてデンゼルはウィルに「人生最高の場面で、悪魔は囁く。気をつけるんだ」と、大塚明夫の吹き替えの声が聞こえてきそうな言葉をかけたという。そしてデンゼルは駆けつけた俳優仲間たちやウィルと共に、神に祈りを捧げた。このおかげか、ウィルは最優秀主演男優賞を受賞したのだが、壇上で無事にスピーチを終えることができた。
そして近年になって明らかになったのは、ショーン・コムズ事件関連である。ラッパーで実業家のショーン・コムズが夜な夜な怪しげなパーティーを主催し、そこに多くのアメリカンセレブたちが参加していたという、衝撃的な事件が発覚したのだ。実はこのパーティーにデンゼルも呼ばれていたという。そのとき、デンゼルがとった行動は……激怒してパーティー会場を出て、主催者のコムズをこんなふうに一喝した。「お前には人へのリスペクトがない!」。その後も後輩にはコムズのパーティーに近づかないように警告を続けていたそうだ。コムズはアメリカの超セレブであり、同時にギャングとの繋がりも噂される人物である。警察に通報しても無駄に終わる可能性もあるし、最悪の場合は自分や、自分の愛する人に被害が及ぶかもしれない。そんな状況でデンゼルは堂々と正面から啖呵を切り、後輩たちを守ろうと努力したのは称賛に値する。さすがデンゼルとしか言いようがない。
こういったエピソードが大量に出てくるのがデンゼルという男なのだ。デンゼルはいつだって信頼に応え、期待以上のものを観客や同業者に届け続けている。何故にここまで周囲の期待に100%応え続けるのか? 恐らくだが、デンゼルがまだ修行中だった頃に体験した、あるエピソードが関係しているだろう。学生として演劇を学んでいたデンゼルは、その才能を見出され、教授から舞台関係者への紹介状を書いてもらうことになった。すると教授は紹介状の中にこんな挑戦的な一文を盛り込んだ。「もしこの青年(※デンゼルのこと)を育てるほどの才能がキミにないのなら、彼を受け入れないでほしい」。この文章を見たデンゼルは、大いに感動したという。自分にそれだけの才能・価値があるという話ではなく、自分をそこまで信じてくれる人間がいることに感動したのだ。誰かに心から信じてもらえること、心から応援してもらえること、その心強さをデンゼルは知っているのだろう。だからこそ人々の期待に応え続けているのだ。実際、『イコライザー』の復活について、デンゼルはこうも語っている。「『イコライザー』は私のための映画だ。何故ならこれは、人々のための映画だから」。人々の望みに応えることが、自分のためだと言うわけだ。圧倒的な器のデカさ、決してブレない信念。デンゼルはいつだってデンゼルである。この調子だと引退宣言を急に撤回しそうな気もするが、その活躍を引き続き注視していきたい。(加藤よしき)