「妊娠したかも」と迫られた天孫が「地元の別の神の子でしょう」と信じず…ゴリゴリの関西弁『古事記』がおもろすぎたワケ(レビュー)
女から誘ったら国土が使いものにならなくなった…!?
たとえば、日本の国土をつくった夫婦神のの伊耶那岐命(いざなぎのみこと)と伊耶那美命(いざなみのみこと)は、交合して国をつくろうとするのだが、「その前になにか儀式があったほうがよいだろう」ということで、極度に太い柱のまわりを左右に分かれてぐるっとまわり、出会ったところで交合することにした。そして出会うと、まず伊耶那美命が「ええ男やわ」とおっしゃり、そのあとに伊耶那岐命が「ええ女やわ」とおおせになって交合したのだが、生まれてきた国土は使いものにならなくて、天上の神に相談しに行く。すると、「女から働きかけたことが原因」と言われ、出会ったときに「ええ女やわ」「ええ男やわ」の順で賛美し合うと、うまくいったという。 ほかにも、邇邇芸命(ににぎのみこと)が木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)と関係を持ったのちに「妊娠したかも」と迫られる場面がある。そしたら邇邇芸命は、「たった一晩で妊娠、ってそんな訳ゃあない。多分、それ地元の国つ神の子でしょう」とおっしゃる。(ちなみに、のちに産まれた子は邇邇芸命の子だと証明される) あと、……いや、もうやめとこ。とにかく、日本の神々はみなみながとても個性的なのがよく伝わってくる。もっとパンチの効いたエピソードがまだまだあるので、けっして難しい本やと思わず気楽に手に取ってほしい。 作者は、もともとパンクバンドのミュージシャン。そう考えると、この作品はカバーとも表現できる。古事記というアルバムを、作者は演奏して歌いあげた。 作中の言葉遣いは過激だが、そうすることでおかしみを生み、固いイメージの古事記を咀嚼して届けてくれた。これは、笑いが持つ効果を最大限に知る作者だからこそできる挑戦であり、この作品がはたした功績は大きい。 [レビュアー]ピストジャム(芸人) 1978年9月10日生まれ。京都府木津川市出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。大学卒業後、こがけんを誘って吉本興業の養成所へ入所(東京NSC7期生)。2002年4月にデビューし、「マスターピース」「ワンドロップ」など、いくつかのコンビを経て、ピン芸人となる。アイドルのラジオ番組 MC などでも活躍。下北沢カレーアンバサダー。かまぼこ板アート芸人。2022年『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』(新潮社)を発売。 協力:吉本興業 第一芸人文芸部 Book Bang編集部 新潮社
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