ヤクルト・山崎晃大朗、ファンに仲間に愛された9年間 後輩たちにも響いたひたむきな姿勢
【武田千怜のアナザーストーリー】別れすらも明るく－。〝らしさ〟あふれる最後のスピーチは、ファンの心に深く刻まれただろう。今季限りで現役を引退する山崎晃大朗外野手（31）のことである。 10月3日の広島戦（神宮）後に行われた今季の本拠地最終戦セレモニー。高津監督からむちゃぶりされたスピーチで、山崎は「打っても2割5分。盗塁も2桁に届かない。打点もちょっと少ない。全体的に中途半端な成績でしたけれども、9年間ありがとうございました」と自虐的に発言し、神宮のファンの笑いを誘った。 「走攻守三拍子、非常に微妙な選手でした」という指揮官からの〝愛あるいじり〟を受けてのコメントである。突然のふりにも自分らしく対応して、周囲を笑顔にする。チームメートに慕われ、ファンに愛されるゆえんが垣間見えた瞬間だった。 10・3の現役ラストゲームは試合前から〝らしさ〟全開。練習では、川端や中村らナインが粘着テープを使って自作した背番号31の練習着を着用した。2日に行われた青木の引退試合では、選手全員が青木の背番号23のユニホームを着て試合に臨んでおり、山崎は「ムネ（村上）が『ノリさんとの温度差やばいね』って言い出して」と粋な演出の経緯を説明した。 自らは粘着テープに「さらば ミスターサウスポー 強肩 ありがとう」と記して31をつくった発案者の村上は「ふざけただけです」と照れくさそうに笑うが、そこには7歳上の先輩への感謝の思いが込められている。山崎との思い出として挙げたのは、2連覇を成し遂げた2021、22年シーズンだ。「優勝した2シーズン、2番（打者）で、たくさんチャンスでつないでくれた」と4番打者。同学年の塩見と1、2番コンビを組み、しぶとい打撃で何度も好機を生む先輩の姿を回顧し、「感謝の気持ちでいっぱいです」とかみしめた。 プロ9年で通算596試合に出場し、打率・246、7本塁打、97打点、48盗塁。高津監督は山崎について「誰よりもチームのことを理解し、自分の立ち位置を理解し、〝山崎〟と声をかける前に、何度も目が合ってベンチを飛び出す姿は、さすがだなと思っていつも感心していました」と話した。明るい愛されキャラでムードメーカーの印象が強いが、野球への取り組みはまじめさが光る。そんなひたむきな姿勢は後輩の目に焼き付いており、村上は「そういうふう（ムードメーカー的な存在）に見えますけど、チーム全体をしっかり見られる方ですし、後輩のこともすごく見てくれる方です」。視野の広さや気配りにも、尊敬のまなざしを向けた。 〝主役〟を囲む仲間たちの笑顔が広がる胴上げを見て感じた。現役を退いても、野球へ注いだ背番号31の情熱や魂は、後輩たちが引き継いでいくだろうと。（サンケイスポーツ・ヤクルト担当）
