未曽有の経営危機で高まる結束――。日本人CEO、ベルギーの小クラブ、そして地元サポーターの語り継がれるべき物語【現地発】
「1部昇格も、クラブの永続的存続も、俺たちは諦めてない」
ピッチに目を向けると、今季のデインズは「2部リーグ優勝候補筆頭」という声もあるほど、戦力が充実している。今夏から指揮を執るのはエルナン・ロサーダ。ベールスホットを率いた2020年、年間最優秀監督賞で2位に輝いた攻撃サッカーの信奉者だ。 このデインズ・プロジェクトをACAFPが立ち上げた最初の2022-23シーズンは開幕から躓き、一時は最下位に沈んだものの、後半戦で持ち直したことによって「1部昇格プレーオフ」進出まであと一歩のところまで迫った。昨季(23-24シーズン)は終盤、首位に浮上したものの勝点1足りずに最終リーグ3位となり、惜しいところで自動昇格を逃した。 「デインズはスポーツ的にはベルギー国内での評価が高まっており、優秀な選手たち、優秀な指導者の方たちが集まってきてます。この問題が公になる前、我々は(資金繰りの面から)ひとり選手を売らざるを得なかったのですが、売却益の余剰金で必要最小限の戦力をうまくふたり、パズルをしながら獲得しました。次の投資家さんを見つけるためにも、チームの競争力を下げてはいけない。さらに『我々はまだ諦めてない』というメッセージをみんなに示したかったのです」 メインスタンドで話をしていると、ファンたちが飯塚CEOに近づいてきた。「今、私は話をしている最中ですので」と断っても「俺たちはお前がベストを尽くしているのを分かっている」「頑張れよ」「アキ! アキ!」と意に介せず彼らは喋り続け、去り際には左胸に手を置きクラブ愛を示してから、飯塚CEOと抱擁をかわした――。この2年半に渡ってサポーター、スポンサーとダイレクトな関係を築き上げたからこそ、未曾有のクラブ経営の危機に彼らは飯塚CEOの味方に回ってくれるのかもしれない。 「こういう危機的状況の時は、やっぱりみんなで結束することが重要です。そういう意味で、選手たちともすべて透明性をもって話しますし、パートナーさんたちとも『こういう状態です』と隠すことなく全部話してます。その上で、お支払いに関してのところも頭を下げながら『なんとか待ってください』とお願いしています。なんとか、そこから先の道筋を見つけたいので、今は私や他スタッフが持っているあらゆるネットワークを駆使して解決策を探しています」 彼が「本当にありがたい」としみじみ語るのは、クラブステートメントが出てから、スタッフたちがとても明るく振る舞って「今できることを全力でやろう」と頑張ってくれていること。 「それはビジネス・スタッフだけでなく、ユースアカデミーの人たちも一緒。『クラブは今、こんな状態だけど、頑張ろう』とみんなが言ってくれるんです。そんな彼らのためにも、なんとか道筋をつけたいです」 その後、一緒にスポンサールームに顔を出すと、人びとが飯塚CEOの元に寄ってきて励ました。なかには私にも明るく自己紹介をしてくれたスポンサーもいた。 「彼は良い時も悪い時も、来てくれます。特にクラブが難しい状況になると、いつも応援に駆けつけてくれて、シャンパンやワインを何本か注文してくれるんです。そういうのが本当にありがたい」 5節を終え、デインズは首位RWDM、2位ラ・ルビエールと勝点3差の3位とまずまずの位置につけている。今こそピッチの中と外で団結して、苦境を乗り越えるとき。 「1部昇格も、クラブの永続的存続も、俺たちは諦めてない」。そんなメッセージをスタジアムの至るところで感じることのできた、デインズのホームゲームだった。 取材・文●中田 徹
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