一生を宇宙船で過ごす人々が直面する問題とは? 何世代も続く「遠い恒星への旅」の倫理と哲学
民間企業による宇宙飛行が実施されるなど、宇宙はかつてないほど身近になっている。しかし、太陽系を離れた恒星への旅についてはどうだろうか? 私たちはいつか、遠い星まで出かけ、そこに住むことも可能になるのだろうか? 今回、NASAのテクノロジストである物理学者が、光子ロケットや静電セイル、反物質駆動、ワープ航法など、太陽系外の恒星への旅の可能性について本気で考察した『人類は宇宙のどこまで旅できるのか:これからの「遠い恒星への旅」の科学とテクノロジー』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。 【写真を見る】NASAテクノロジストの物理学者が本気で考えた宇宙トラベルガイド
■宇宙船での暮らしがもたらす心理的影響 遠い恒星という目的地までの飛行中、大勢の旅行者たちが生活する1つの世界となるワールドシップ宇宙船での船内生活について、心理学・社会学・政治科学に基づく社会科学的な議論や、その倫理と哲学について考えてみよう。 限られた人数の孤立した集団で、宇宙旅行しながら長期間過ごすという特殊な状況の心理的影響を理解するためには、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する(最長1年間連続で)宇宙飛行士たちが活動したこの20年間でNASAが収集したデータを参照すればいいじゃないかと思われるかもしれない。
NASAはこのほか、3年もかかる火星往復旅行が乗組員に及ぼす心理的影響を推測する研究にも出資している。このデータは、重要なのは間違いないが、乗組員はたった5名というISSに比べ、大人数が乗り込むワールドシップにはあまり当てはまらないだろう。 この件に関して、海軍を参考にしようとする人が多い。海軍では、NASAのミッションよりもはるかに大勢の人員が、ほぼ自律的に活動する船のなかの密な居住空間に置かれて、連続で何カ月も、ほかの人間から隔離されて過ごす。乗員が6000人を超えるアメリカ海軍空母なら、乗員が1万人を超えるはずのワールドシップに最も近いと言えるだろう。
ワールドシップは海を行くのではないし、隔離は残りの生涯続くが、海軍の多くの若者たちにとっては、連続1年以上世間から離れて海上生活するのは、まるで一生そうしているかのように感じられるかもしれない。 このテーマに関する文献が宇宙旅行とは無関係なさまざまな専門誌に掲載されているが、ワールドシップの設計者が設計の過程でそれらのものをよく調べなければならないのは間違いない。 ■生涯を船上で暮らす人々の文化 海軍に倣えと言うけれど、船上で暮らす人々の文化とはどのようなものだろう?