中国人民銀行が国債売却へ:中国版シリコンバレーバンク破綻も警戒か
市場安定化効果は限定的か
ちなみに日本では、日本銀行が「国債補完供給」を実施している。日本銀行が国債を大量に買いれる中、不足した特定の銘柄の国債を一時的に金融機関に貸出すことで品不足を補うことを目指す制度だ。買戻条件付での売却となる。日本銀行が金融緩和策の一環で行ってきた大量の国債買い入れがもたらす副作用を緩和する措置と位置付けられるだろう。 これに対して中国では、金融政策の影響ではなく経済力の低下といった経済ファンダメンタルズを反映した国債市場の逼迫を緩和するために、人民銀行が国債の貸出を行う、という違いがある。 ただし、人民銀行が一時的に国債を銀行から借り入れて市場で売却しても、いずれは市場から国債を買い戻して銀行に返却しなければならないだろう。従って、この制度のもとで、国債需給のひっ迫を緩和させる効果は一時的なものだ。 この点が国債市場で認識されれば、人民銀行の国債売却による利回りの安定化効果も限られるのではないか。 利回りの低下トレンドに歯止めをかけ、国債市場の安定を回復するには、金融調節ではなく、政府による積極的な不動産不況対策などの経済政策が必要となるのではないか。 (参考資料) 「中国中銀、数千億元の国債売却枠を準備-金融機関と借り入れ契約」、2024年7月5日、ブルームバーグ 「中国人民銀、「数千億元」の国債借り入れ」、2024年7月5日、ダウ・ジョーンズ中国企業ニュース 「中国人民銀、国債借り入れへ 公開市場操作 売り介入準備か」、2024/07/02 日本経済新聞 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英