このクルマはいったい何だ? ヤフオク7万円で買ったシトロエンのオーナー、エンジン編集部ウエダが、フランスの聖地で出会ったとびきりレアなクルマとは
驚きの純フランス産のミドシップ・スポーツカー!
ヤフー・オークションで手に入れた7万円のシトロエン・エグザンティアを、10カ月と200万円かけて修復したエンジン編集部ウエダの自腹散財リポート。エグザンティアの生誕30周年を祝うイベント参加報告もそろそろ終盤。今回はパリ郊外にあるシトロエン博物館、“コンセルヴァトワール”の中ではなく、外で出会った珍しいクルマたちと、そのオーナーを紹介する。 【写真11枚】純フランス産のミドシップ・スポーツカーのセクマっていったい何だ? その詳細画像はこちら! ◆純フランス産のミドシップ・スポーツカー エグザンティアのなかでもとびきり複雑なサスペンション・システムを持つアクティバ。そのオーナーズ・クラブ、“アクティバ・クラブ”の面々に会うため、僕はシトロエン博物館の見学を後回しにし、駐車場へ向った。 エグザンティア・アクティバがずらりと並ぶ列に添って歩いて行くと、その先にさっき見かけた小さな赤いスポーツカーがいた。後ろから見ただけでは、それが何なのか、まったく判別ができない。 前に回り込んでじっくりと眺めてみる。ヘッドライトの周囲の意匠は古のシトロエン・アミのようでもあるが、僕はまるで映画モンスターズ・インクに出てくる悪役、ランドールみたいだと思った。 ボンネットにはSECMAと書かれた楕円のエンブレムが付いている。さらに、その上下にはF16ターボというステッカーも貼られている。両者の間には「100% MADE IN FRANCE DEPUS 1974」という白地の文字も見える。 どうやらこの赤いスポーツカーは、フランスのセクマが手がけている2人乗りのミドシップ・スポーツカーのようだ。同社の公式ウェブサイトによれば、セクマは1995年にスタート。創業者ダニエル・ルナールが1974年に設立したERAD社という、マイクロカーの製造に携わったことが原点だという。 ウェブサイトには歴代の車両も掲載されており、起源はMGミジェットのレプリカ車、つまりかなりクラシカルなロードスターだったが、以降は路線を変更。MCCスマートの先駆けのような3輪や4輪のなかなかキュートなマイクロカーや、農作業用のトラックを手がけてきた。 驚いたことにダニエルはロータスの創始者、コリン・チャプマンとも関わりがあったらしい。 セクマはその後、オフロード用の4輪や6輪のファンカーの製造を経て、2008年に公道用のスポーツカーとして“F16”を発表。シャシーはパイプ・フレーム製で、ドライバーの背後にルノー製の1.6リットル直列4気筒ユニットと5段MTを搭載した2座のロードスターだった。車両重量はわずか560kgしかない(写真ギャラリー参照)。 このF16を基本とし、レトロなルックスと悪路走破性を高めたシャシー・セッティングを施した“ファン・バギー”、F16のパワーユニットをプジョー製の1.6リットル・ターボと6段MTへ置き換えると共に、スタイリングを一新した“F16ターボ”、そして最新作“F16ターボGT”、という計4つのモデルを現在生産している。 もっとも新しいF16ターボGTぐらいになると、イギリスのTVRのようではあるけれど、まだ理解のできる形状なのだが、それ以前のセクマ車、特に目の前にあるF16ターボは本当に不思議なスタイリングである(写真ギャラリー参照)。 車体のサイズはかなり小ぶりで、隣に並んでいる2代目の白いシトロエンC4がかなり大きく見えた。やはり公式ウェブサイトによれば、全長が3182mm、全幅が1735mm、全高が1165mmしかない。最終型のロータス・エリーゼよりも618mm短く、15mm幅広く、35mm高いといえば、そのサイズ感が分かるだろうか。 面白いのはマクラーレン720Sや750Sのような(かなり簡素な布製だけど)ルーフの中央とフロント・ガラスの左右付け根にリンクを持つ、着脱式のディヘドラル・ドアを備えていること。 この凝ったドアの造りを含め、インテリアの仕立てなど、2色のレザーが用いられておりなかなか豪華で、ちゃんとした量産車のレベルだ。かつてのイギリスのバックヤード・ビルダーのようなものではない。 ◆ベリー・シンプル! この赤いF16ターボのオーナーはYann Lecomte(ヤン・ルコント)さん。当日はパートナーと一緒にセクマでコンセルヴァトワールへやって来たが、かつては20年間エグザンティア・アクティバに乗っていたそうだ。 実は彼は、アクティバ・クラブの会計も担当しているという。おそらく僕がクラブ代表のThomas Beligne(トマ・ベリニエ)さんにコンタクトを取って、日本からやって来たことを知っていたのだろう。気を遣って英語で、クルマについて簡単に説明をしてくれた。 逆アリゲーター式のボンネットも開け、車体の構造も見せてくれる。ロータス・エリーゼと同じように、フロントにはラジエーターとバッテリーが配置されていた。ただしエリーゼとは異なり、燃料タンクも前側にあるため、中央に給油口が備わっている。 それでもホイールハウスとバルクヘッドの隙間には意外とスペースがあって、思ったよりもずっと荷物が載せられそうだ。車体のカバーとおぼしきものや、彼の衣類が収まっているのが見える。ステアリング・シャフトやサスペンション・アームへのアクセスも簡単で、整備性もなかなか悪くなさそうである。 ルコントさんはサーキット走行を楽しみたいと考え、さらなる軽さを求めてエグザンティア・アクティバからセクマに乗り換えたのだそうだ。なにせ彼のF16ターボの車両重量は、F16よりも重くなっているとはいえ670kgしかない。最高速は240km/hに達し、0-100km/h加速は4.8秒というパフォーマンスの持ち主である。「ベリー・シンプル! ノー・エレクトリック・アシスタント(笑)」と、丁寧にセクマについて教えてくれる。 そんな彼と、それを優しく見守るパートナーの笑顔は、なんとも心温まるものだった。それにしても、アクティバからセクマへの乗り換えとは。世界中を探しても、こんなレアなモデル同士でクルマの入れ替えをするような人は、まずいないだろう。 さて、ルコントさんにセクマを見せてもらった後、僕は歴代のエグザンティアの中でも、最もパワフルで、最も凝ったメカニズムを持つ貴重な1台にも遭遇することができた。そこで次回はこの、いわば“最強のエグザンティア”の同乗試乗の模様をお届けする。 文と写真=上田純一郎(ENGINE編集部) ■CITROEN XANTIA V-SX シトロエン・エグザンティアV-SX 購入価格 7万円(板金を含む2023年3月時点までの支払い総額は234万6996円) 導入時期 2021年6月 走行距離 17万4088km(購入時15万8970km) (ENGINE WEBオリジナル)
ENGINE編集部
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