なぜ?“洋上投票”利用者ゼロ 四半世紀前 気仙沼発で実現も…〈宮城〉
仙台放送
漁船の乗組員などが遠い海の上からも投票できる「洋上投票」についてです。先日の衆院選でも実施されましたが、実は今、ほとんど利用されていません。四半世紀ほど前に気仙沼市の漁業関係者が声を上げ実現した制度ですが、なぜ利用されなくなっているのでしょうか。 10月の衆院選を前に気仙沼市選管に設置された洋上投票の専用の受信機。投票の秘密が守られる特殊なファクスです。洋上投票は投票日にも海上にいる遠洋漁船の乗組員などが、事前に交付された専用の投票用紙を使いファクスで投票する制度です。 現在は国政選挙で実施されていて、県内では気仙沼市のほかに、石巻市と塩釜市が洋上投票を受け付ける指定港となっています。しかし…。 気仙沼市選管事務局 泉田正治次長兼主任 「洋上投票については、平成22年(2010年)の第22回参院選以降、利用はない。今回の第50回衆院選でも利用はない状況です」 気仙沼市では洋上投票が始まった当初は一定の投票数はあったものの、その後投票数は激減。そして今回の衆院選までの14年間・9回の国政選挙で投票用紙は1枚も送られてきませんでした。 また、塩釜市では制度が始まった2000年から、これまで1票も投票がありません。 石巻市では今回と前々回の衆院選で投票がありましたが、いずれも実習船からの投票で県内の漁船員にはほとんど利用されない状態が続いています。 洋上投票決起大会(1996年) 「世界の国々には色々な選挙の方法があるそうです。どんな方法でもよいと思います。父たち船員さんの貴重な一票を無駄にさせないでください」 2000年の衆院選から始まった洋上投票は気仙沼から声を上げ実現した制度です。1990年代、気仙沼市の遠洋漁業関係者が長期間の航海で選挙権を行使できない漁船員たちの投票を実現しようと要望を始め、国を動かしたのです。 当時、長年の悲願だった洋上投票が四半世紀経った今なぜ利用されなくなってしまったのか、遠洋漁業の当事者に実情を聞きました。 宮城県北部鰹鮪漁業組合 勝倉宏明代表理事 「いつ解散があるかわからない状況の中で、実際に今現在も多くの船が洋上で操業している。今回の衆院選も洋上投票の事前の手続きを行えた船はない」 洋上で投票するには、出航前に投票用紙を申請し受け取っておくなど事前の準備が必要ですが、航海中に解散総選挙があると投票のしようがありません。また、通信環境や機器の問題もあると言います。 宮城県北部鰹鮪漁業組合 勝倉宏明代表理事 「今の洋上の通信環境がかなり進化していることで、選管のアナログFAXとのミスマッチが起きている」 選管で設置する受信機は洋上投票導入時から大きく変わっていません。 一方で、漁船側の通信環境は高度化し、送られた投票用紙が選管側の受信機でうまく読み込めないケースがあるようだと勝倉さんは話します。 実際、今回の衆院選でも、石巻市が受け付けた実習船からの洋上投票で、読み取りができなかった票が1票あり、無効票として処理されてしまいました。 宮城県北部鰹鮪漁業組合 勝倉宏明代表理事 「投票できる環境を整える。それがあって初めて、誰に投票したい、どの党に投票したい、投票しないという選択ができる。今は投票できないという選択肢しかない」 市の選管もシステムの問題を挙げます。 気仙沼市選管事務局 泉田正治次長兼主任 「利用されないのはとても残念だが、今の船にこの古いFAXがあるかといわれるとないようだ。洋上投票の仕組みが今の時代にマッチしなくなっているので、投票が少なくなってきている」 選挙制度に詳しい専門家はインターネットを用いたシステムに置き換えるべきだと指摘します。 東北大学大学院情報科学研究科 河村和徳准教授 「投票権をいかにデジタルで担保するかという時代になっている。投票日に日本にいない人の投票権をデジタルでサポートするという制度になる。洋上投票、南極投票、在外選挙人の郵便投票をインターネット投票に置き換えるということが適切な措置だと思う」 実現の可能性については…。 東北大学大学院情報科学研究科 河村和徳准教授 「在外投票にインターネット投票を利用するというのは技術的に克服されている、制度的にも十分検討されている。あとは政治がGOサインを出すだけの状況になっている」 漁業関係者の思いは一つです。 宮城県北部鰹鮪漁業組合 勝倉宏明代表理事 「乗組員も投票したいんですよ。投票したいけどできないという状況がずっと続いている。乗組員の投票する権利を行使させてほしい、投票できる環境を作ってほしい」 国民の重要な権利である選挙権が制度の問題で行使できないことは、あってはならないことです。時間の経過で、いわば「制度疲労」を起こしている現在の仕組みを早急に見直す必要があります。
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