新正俊、湊かなえ原作の主演舞台は「絶対に出たいと思った」 俳優が天職と語る期待の24歳
2024年8月10日(土)から25日(日)まで、東京都・恵比寿・エコー劇場にて湊かなえの同名小説を原作とした舞台『ブロードキャスト』が上演される。主演は、MANKAI STAGE『A3!』シリーズや舞台「魔法使いの約束」などで人気を集める期待の新鋭・新正俊。新にインタビューを行い、本作に対する意気込みや、役者としての思いを語ってもらった。 【撮りおろし】柔らかな眼差しが魅力的な新正俊 ■8月の主演舞台は「絶対に出たい」と思った作品 ──8月に控える主演舞台「ブロードキャスト」。出演が決まったときはどう感じましたか? 「湊かなえさん原作!?」と驚きました。湊かなえさん原作のドラマや映画は多いですけど、舞台はあんまりない印象でしたので、絶対に出たいと思いました。正直、スケジュール的には結構厳しそうだったんですが、「どうにかして出させてほしい」とマネージャーさんに伝えました。 ──それは湊かなえさん原作の作品だったから? それとも主演だったから? どっちもですね。ちょうどお話をいただいたとき、湊かなえさん原作のドラマ「リバース」(2017年、TBS)を見ていたんです。さらに、ちょうど(今作が上演される)恵比寿・エコー劇場にお芝居を観に行っていて「いい劇場だな。いつかやりたいな」と思っていたので、運命を感じました。 ──それはもう呼ばれていますね。 そうですね。普段は、こういう取材で「最初に出演が決まったときどう思いましたか?」と聞かれると「自分にできるか不安でした」と答えることが多いんですけど、今回はただ「やりたい!」という気持ちだけでした。 ──ちなみに原作は読まれましたか? はい。読みました。青春モノですけど、“何かに向かって熱血に!”というだけではなくて、人間模様も描かれている、面白い作品だなと感じました。 ──現時点ではどのような舞台にしたいと思っていますか? 原作が伝えたいことはそのまま伝えないといけないなと思っていますけど、舞台ならではの良さも伝えられるようにしたいです。人が動いているところを直接見てどう感じてもらえるか、ということを大切に、キャストの皆さん、演出の元吉(庸泰)さんと一緒に考えていきたいです。あとは、ちゃんと“青春”ということが見てわかるような作品になればいいなと思います。みんなで1つのものに向かって走る、ということがちゃんと表現できたらいいなって。 ──「みんなで1つのものに向かって走る」というのは、まさに舞台作品にも言えますよね。 そうなんですよ。主人公も陸上部時代は襷を繋いで駅伝を走りますし、何かに対していろんな人たちが繋いで完成形を見せる、というのは、舞台だけじゃなくて、みんなに当てはまること。会社員の方たちもそうだと思います。だからこそ、それが当たり前じゃないんだということが伝えられたらいいなと思っています。 ■不安や恐怖を取り除いていく稽古期間 ──「原作が伝えたいことはそのまま伝えたい」とおっしゃいましたが、新さんとしてはこの作品からどのようなメッセージを受け取りましたか? この作品は、駅伝で全国大会を目指していた主人公が、とあることをきっかけに放送部でラジオドラマと出会い、放送コンテストで再び全国を目指すという物語。新しいものに挑戦する勇気や、一つのことに熱中する大切さ、みんなで何かを成し遂げる姿など、いろいろなことがガンッと伝わってくるなと感じました。 ──今お話しいただいたように、新さん演じる町田圭祐は劇中で駅伝を諦め、ラジオドラマという新しい夢を目指します。そんな主人公に共感する部分や、ご自身と重ね合わせる部分はありますか? 新しいことに挑戦する不安や怖さというのはすごく共感できるなと思いました。僕も新しい作品に入るときは、台本しかない状態だし、キャストも知らない人だらけだったりするので、「本当にこれが出来上がるんだろうか」と思ってしまいます。変な恐怖心がどうしても湧いてきてしまうんですよね。 ──その恐怖心や不安はどうやって取り除いていくのでしょうか? 舞台は稽古期間がだいたい1ヶ月くらいあるのですが、その期間が全部の不安を取り除く期間になっているような気がします。他の役者さんと話し合ったり、演出家さんと話し合ったりして信頼関係を築くことで、不安や恐怖がなくなっていきます。「ここのセリフ、言いづらいな」ということもたまにあるんですけど、そういうときは演出家さんに「どうしてもここ言えないです。こう言ってもいいですか?」と提案をすることもあります。そうやって不安要素を一つずつ潰していくしかないですね。 ──毎回不安や恐怖を持ちながらも、作品に出続けているわけですが、お芝居や演劇の魅力、楽しさはどこに感じていますか? 結局、作品が面白いことかな。あとは、毎回同じお芝居が誰もできないこと。ちょっとでも感情が違うとか、言い方が違うとか、そうやって毎回新鮮な気持ちでできるのがお芝居の楽しさですかね。 ──新さんはシリーズものの続投も多いですが、それでも毎回新鮮な気持ちでいられている? はい。その日のコンディションや体調、相手のメンタルなど、絶対に毎日何かしら違うし、それによって全部が変わってくるので。「今日はこう言うんだ!? じゃあこう返そうかな」って。同じだと感じていたとしても、絶対に違っていると思う。だから面白いんですよね。 ■2.5次元舞台とそうでない作品は“チューニング”が必要 ──その「お芝居が面白い」という気持ちは、始めた頃と今で変わっていますか? お芝居を始めたのが高校生のときなんですけど、それまではレッスンをほぼ受けたことがなくて。「とにかくやるしかない」みたいな状態がずっと続いていたんです。でもそのやり方に限界が見えてきたので、基礎からちゃんとやりたいなと思っていたときに師匠と出会いました。その人のところでみっちりお芝居を勉強すると決めたことでかなり変わりましたね。お芝居の概念も変わったし、「お芝居1本でやっていこう」という気持ちにもなったし、それこそ演技が楽しいと思ったのもそのときからです。 ──師匠にはどういったことを教わったんですか? 理論を教わったというより「これやってみろ」って、体当たりでやっていく感じではあったんですが、“役に体を支配されるんじゃなくて、第三の目みたいなものを持って、客観的に全体を見て芝居を見ろ”ということをずっと言われていました。そして、「役と自分で手を組め」と。役の名前の間に、自分の名前がミドルネームのように入っている感じですね。 ──役にのめり込んでいるときでも、常に第三の目のようなものを意識するように? はい。でも、今は無意識に第三の目みたいなものが備わったように思います。 ──今はもう無意識に。 はい。師匠のところにいる間は、作品も出ないし、オーディションも受けないと決めていたんですが、半年後くらいに一つだけ受けた作品があって。それで受かったのが舞台『魔法使いの約束』、僕にとっての初めての2.5次元舞台でした。そこからずっと2.5次元舞台にも出させていただいているので、すごいタイミングだったなと思います。 ──いろいろな作品で活躍されていますが、お仕事をする上で大切にしていることはありますか? 2.5次元舞台に出たら、一度ストレートの作品を挟んで、また次は2.5次元舞台という感じで、リセット期間を作るようにはしています。僕はそれを“芝居のチューニング”と呼んでいるんですけど。自分のなかで、2.5次元舞台とストレート舞台は芝居の作り方が違うので、その切り替えが必要なんですよね。 ──その違いを言語化すると? ストレートは、台本に沿って感情のままセリフを伝えていくので、入り込む。それに対して。2.5次元は物語を俯瞰して見てもらうイメージで、“出来上がっているところに入る”みたいな感覚です。原作ファンの方もいらっしゃるので、原作のキャラクターに近づけつつ、でも原作に近づくだけだったら誰でもいいわけで、そこに自分の味をどれだけ出せるかを考える。芝居の仕方は全然違いますね。 ──両方に出続けるということは大切にしている? そうですね。ストレートで自分の感情を揺らせるのはすごく楽しいなと思いますけど、2.5次元に自分の居場所があるなら、できるだけ自分の精一杯のことをしたいなとも思います。 ■俳優という職業は天職、「これ以外できない」 ──ここからは少しプライベートについて聞かせてください。「ブロードキャスト」は湊かなえさん原作だったことも決め手の一つだとおっしゃっていましたが、本はよく読まれますか? 最近はあんまりできていないですけど、以前はよく読んでいました。好きなほうだと思います。 ──新さんにとって、読書はどんな時間ですか? 感情を知るための時間なのか、リフレッシュなのか。 感情を知るためかな。物語を読むことが多いのですが、読みながら「なんでこういう感情になるんだろう」と考えています。変な読み方ですよね(笑)。 ──常にお芝居や、お芝居に繋がることを考えているんですね。 そうですね。 ──リフレッシュの時間や、オンとオフの切り替えみたいなものは? ないですね。休みの日も映画とかドラマを見て、演技について考えちゃってます。 ──ここまでお話を伺ってきた感じだと、それも純粋に楽しんで見ているわけではなさそうですよね? はい(笑)。本当は楽しんで見たいんですけどね。「なんでこんな表情してるんだろう」とか考えちゃうんですよね。別に芝居のためとかそういうことではなく、純粋に興味があるだけなんですけど。、表情分析の本を読んだり、表情心理学の勉強もしてたりします。 ──今、マネージャーさんから「ご飯を食べているときなどもずっと人間観察をしている」というタレコミが(笑)。 人間観察は24時間していますね。街を歩いていても、偏見ですけど、「こういうガタイで、こういう歩き方をしていて、こういう髪型で、こういう顔のパーツをしているから……たぶんあの人はこういう性格だろうな」とか「こういう服装で、こういう歩き方をしていて、こういう姿勢だったら……」みたいなことを考えています。リフレッシュのために散歩に行こうと思って家を出ても、例えばコンビニで見かけた雑誌の表紙とかから「このデザインいいな」とか「この色合いいいな」と思って、そこから自分のプロデュースグッズのことを考えて1時間経っていたり。全部無意識なんですけど。 ──でもそれが楽しいと。 楽しいですけど、疲れます(笑)。 ──とはいえ、最終的に全てがお芝居に繋がっているので、俳優という職業は天職なんでしょうね。 だと思います。これ以外できないです。 ──では最後に、俳優としての今後の展望や、理想の俳優像を聞かせてください。 全部を圧倒できる役者になりたい。師匠に「舞台に1歩出た瞬間から捌けるまで存在感を消すな」と言われたんです。師匠はシェイクスピア作品の演出家なんですけど、「シェイクスピア作品の俳優は、舞台上にいる間、存在感は消さない。お前もそれでいろ」って。もちろんメインの役者さんたちのことは立てるんですけど、それでも“なんか目が行くな”って思われる存在になる。そういうことを忘れずに、ずっと俳優を続けていたいなと思います。そして最終的には、映像と舞台どちらでも活躍できるようになりたいです。 ■取材・文/小林千絵 撮影/つぼいひろこ ヘアメイク/小園ゆかり スタイリング/こむらひかる