駆け込み消費はお得だったのか?
そこで、「東大日次物価指数」()という統計で比較してみます。東大日次物価指数は、東京大学がスーパーのPOSシステムを利用して作成している統計で、すでに4月の物価がわかります。今回の消費税率引き上げの価格への影響をいち早く捉えており、注目されている指標です。食料品や日用雑貨が対象なので、ちょうど、電化製品を除いた影響が分かります。 「家計調査」の結果とあわせて、類推してみましょう。次のグラフは、2月~4月について、前の年の同じ日と比べた毎日の物価の変化率です。一見して分かるように、消費税率引き上げの2週間前から価格が下落傾向にあり、4月には急に上昇したものの、やはり2週間程度で戻ってきています。 実は、「家計調査」で駆け込み需要をみると、同じような動きになっています。「追加参考図表2」()では、お米、酒類、トイレットペーパーの毎日の支出合計額がグラフ化されています。これらの財では、おおむね2週間くらい前から増加し、4月1日直前の1週間くらいの間にとくに伸びています。 東大日次物価指数とまるで同じ動きで、加えて品目を見ても、同じくお米や飲料などの変化が大きくなっています。そう考えると、食料・日常品は駆け込みがお得だったかもしれません。おそらく、お店では特売を行い、より多くの駆け込み需要を取り込もうとしたのではないでしょうか。それでも、品不足だとそうはいかないのです。興味深いのは、現在の日本は供給能力が非常に高く、需要増加に値下げで対応できたということです。日本の経済システムは高度化されているという印象を改めて持ちました。 ただ、ひとつ注意が必要です。駆け込む人は、たいてい価格に敏感です。 それぞれの品の価格が低下したのではなく、より安い財を選んで購入する人が多かったため、平均価格が下がったように見えるだけの可能性もあります。たとえば、ビールの3月増加率は16.7%ですが、発泡酒・第三のビールは35.3%の伸びになっています。安い方がより売れただけとなれば、駆け込みがお得だったとは言い切れません。 結局、食品や日常品についても、駆け込みがお得だったとは言いきれないわけですが、むしろそれが重要です。それだけ経済が、ぎりぎり、すなわち効率化されていて、その中で平等な経済取引が実現されていることを意味するからです。 賢い消費者になるのは、なかなか大変です。 (文責/釣 雅雄・岡山大学経済学部准教授)