人間は何のために生きているのか、河合優実のドライな視線が”そこ”に触れる『ナミビアの砂漠』
カナの行動や言動は、極端に思えるかもしれない
カナの行動や言動は、極端に思えるかもしれないが、例えばめったに会わない親戚や友人の友人など、この先、それほど関わることがないであろう人との見せかけだけで意味のない会話をするダルさは、口に出さないだけで誰もが思っていることだ。 カナの場合は、それが正直に表情や態度に表れてしまうだけと言えばそうなのだが、それだと社会不適合者になってしまう。世間は嘘をつくな、正直でいろと言うくせに、本当のことは言って欲しくないし、楽しそうにしろ、余計なことは感じないようにしろと、いろいろ押し付けてくる。 そして同時に人間の思考の矛盾点も描いている。カナは、同棲していたホンダ(寛一郎)と別れて、浮気相手のハヤシと同棲することになるが、ハヤシ(金子大地)は映像クリエイター。家で作業しているため、ほとんどの時間を家で顔をあわせている状態。ずっと一緒にいたい相手でも、実際にずっと一緒なら息が詰まってくる。 人間は、仕事や学校で忙しくて時間がないと言っても、実際に時間がありすぎると、それはそれで苦痛だったりもする。人間は常に自分の置かれている環境とは別の環境を求める傾向がある。つまり常に無い物ねだりと格闘しているわけだが、実際にそうなった場合は、思わぬ不具合が生じることも多々あるということ。 忙しさというのは、そもそも人間は~、そもそも社会とは何か~といった、この世界の構造自体に触れてしまいそうな根本的な疑問を考えないようにさせている現実逃避。時間はあってもいけないし、無くてもいけない……。その丁度中間の難しい部分を歩かされているのが、人間ということだ。 正直すぎてもいけないし、時間がありすぎてしまうと漠然と答えのないことが押し寄せてくる。実はこの世界には、深く考えてはいけないことというのが、いくつか存在している。だったら何のために生きているのかわからなくなってしまうことだってあるはずだ。 人間は何のために生きているだろうか。そんな漠然とした疑問をカナの目線を通して投げかけられているような作品であり、観終わった後、現実社会に戻された私たちの見る風景は、いつもと少し違って見えるかもしれない。しかし、それはいつもの世界だ……。 【ストーリー】 21 歳のカナにとって、将来のことを考えるのはあまりに退屈で、自分が人生に何を求めているのかさえわからない。何に対しても情熱を持てず、恋愛ですらただの暇つぶしだ。同棲している彼氏のホンダは、家賃を払ったり料理を作ったりしてカナを喜ばせようとする。しかし、自信家のクリエイター・ハヤシとの関係を深めていくうちに、カナは彼を重荷に感じ始める……。 【クレジット】 監督・脚本:山中瑶子 出演:河合優実、金子大地、寛一郎、新谷ゆづみ、中島歩、唐田えりか、渋谷采郁、澁谷麻美、倉田萌衣、伊島空、堀部圭亮、渡辺真起子ほか 製作:『ナミビアの砂漠』製作委員会 制作プロダクション:ブリッジヘッド コギトワークス 企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ (C)2024『ナミビアの砂漠』製作委員会 2024年 9月6日(金)より全国公開
バフィー吉川