史上もっとも後味の悪い日本映画は? 鑑賞注意の鬱邦画(3)弱い者を「捕食」する…最低最悪のサイコパスを怪演
なぜ人は悲劇を愛するのか。この問いに、哲学者アウグスティヌスは『告白』で次のように答えている。「人は誰でもみな、自分では不幸になりたくないが、他人に憐みをかけることは喜ぶ。(…)そのために悲しみを愛するのだ」―。今回は私たちの憐みを引き出す「鬱な日本映画」をセレクト。比較的近年の作品を中心に紹介する。第3回。※この記事では物語の結末に触れています。(文:村松健太郎)
『ヒメアノ~ル』(2016年)
監督:吉田恵輔 脚本:吉田恵輔 出演:森田剛、山田真歩、ムロツヨシ、英信、濱田岳、佐津川愛美 【作品内容】 代わり映えの無い日々に焦りを感じながら、ビル清掃のパートとして働いている岡田(濱田岳)は、ある日、同僚の安藤(ムロツヨシ)から恋のキューピットを頼まれる。相手は、カフェの店員ユカ(佐津川愛美)だ。 早速カフェに向かった岡田は、高校時代の同級生・森田正一(森田剛)に出会い、彼がユカをストーキングしていることに気づく。 【注目ポイント】 アイドルグループV6の一員としてキャリアをスタートさせ、近年は個性派俳優としての地位を確立しつつある森田剛。そんな彼の初単独主演作が、この『ヒメアノ~ル』だ。 原作は『行け!稲中卓球部』や『ヒミズ』など、数々の問題作を世に送り出してきた日本漫画界の鬼才、古谷実で、監督は『空白』(2021)や『ミッシング』(2024)で知られる名匠・吉田恵輔。キャストには、濱田岳や佐津川愛美、そしてブレイク前のムロツヨシらが名を連ねる。 本作の最大の注目ポイントは、なんといっても森田剛演じるサイコパスキラー森田正一(同姓なのは偶然)だろう。「ヒメアノール」(捕食対象であるヒメトカゲ)のタイトル通り、爬虫類のようにユカをストーキングし、「捕食」する森田。その怪演は、アイドルとしての従来のイメージを覆すのに十分だった。 また、物語構成の大胆さも本作の魅力のひとつだろう。作中では、前半40分で濱田岳演じる岡田の無気力な生きざまを描き、後半で一気にスプラッターホラーに舵を切る。特に、大乱闘シーンから高校時代の2人の友情を描くラストの展開はなんともやるせなく、胸が詰まること請け合いだろう。 (文・村松健太郎)
村松健太郎