『光る君へ』の中で最も“強い”女性は黒木華? まひろとはまた違う倫子さまの賢さ
NHK大河ドラマ『光る君へ』で黒木華が演じる左大臣家の高貴な姫・倫子は貴族の姫たちの中心人物で華やかなだけでなく、おおらかで賢い女性。 【写真】倫子が溺愛するかわいすぎる猫の小麻呂 主人公のまひろ(吉高由里子)とは身分の違いがあっても、まひろの教養の高さや洞察力の鋭さに一目置き、友情のような同志のような絆をしっかりと育んでいる。その2人の関係が大きく変わる出来事があった。これまでの倫子の印象をも変えたのが道長(柄本佑)の婿入りのエピソードだ。 第12回「思いの果て」では、道長がまひろに妾になることを断られ、以前から持ち上がっていた倫子との縁談を進めるよう兼家(段田安則)に話した。そして、縁談話は一気に進み、道長は倫子と初対面を果たす。 予想を超えて倫子が初めて会いに来た道長に対してアグレッシブで、狙った獲物は逃さないハンターのような肉食系女子だったことがSNSでも話題になった。道長も道長で、まひろを呼び出し、左大臣家の一の姫(倫子)に婿入りすることになったと一方的に告げて、まひろから都合の良い返事など期待できないのは冷静に考えれば分かるはず。まひろは「倫子さまが嫡妻で同居するなら私は妾でいいし、時々は家にも通ってね」などと言えるほど、プライドが低くないのだ。「倫子さまは……おおらかで、素晴らしい姫様です。どうかお幸せに」というのが精一杯。 まひろは自分との駆け落ちの話にも乗ってくれなかった。妾にもなってくれない。自分ばかり会いたがっている気がする……と、まひろを廃邸に呼び出してはいつも自分の気持ちを前のめりで話してしまいがちな道長。まひろに夢中になればなるほど、2人の地位や立場の違いが浮き彫りになり、すれ違いも起きる。 まひろに会ったその足で道長は左大臣家に向かった。倫子のもとには多くの殿御から文が届くと噂になっているほどだが、その倫子に文を送らず、いきなり屋敷にやってきた道長の非礼。追い返されても文句は言えないところだが、父の源雅信(益岡徹)も母の藤原穆子(石野真子)も愛情豊かで娘の幸せを最優先に考えている。穆子の許しを得て倫子の居室に通された道長は御簾をくぐると、いきなり倫子が抱きついてきて逆に驚いてしまう。「道長さま、お会いしとうございました」と言葉は丁寧だが、「待ってました!」と心の声では叫んでいそうな大胆さ。 打毬の試合に出場した道長に一目ぼれして「必ず夫にします」「この家の婿にします」と心に強く決めていた倫子はそれを現実のものとした。左大臣家の立派な屋敷・土御門殿 で開催されている和歌の勉強会がきっかけで、まひろは倫子と知り合い、土御門殿にも招かれるようになった。 まひろの父・為時が藤原兼家が起したクーデターの影響で官職を失ったときも、まひろは土御門殿へと向かった。倫子を訪ね、左大臣の雅信に為時を推挙してほしいと頼みに行ったのだ。朗らかで、空気を読まないまひろの言動にも寛容な倫子だが、政治の話となると真顔になり「摂政さまのご決断は、即ち帝のご決断。左大臣とて覆すことはできません」とキッパリと断った。 まひろが「では、摂政さまに直接お目にかかって」と言うと「おやめなさい。摂政さまはあなたがお会いできるような方ではありません」と、たしなめるような少し強めの口調で言い聞かせたのが印象的だった。 藤原兼家とは対照的に左大臣の源雅信は娘の結婚を積極的に政治に利用しようとしていないように本作では描かれている。道長を強引に婿入りさせたい兼家に対しても、娘の気持ちを第一に考えたいと、その都度牽制していた。平安貴族は高貴な姫ほど政略結婚から逃れられない。勢いのある相手と結婚したからといって幸せになれるとも限らない。 平安時代の姫たちは気軽に出歩くこともなく、大邸宅の奥でおとなしくしているイメージがあるが、倫子は自分が主催する勉強会を楽しく盛り上げつつ、生きていくうえで必要な情報を得て、社会の仕組みも政治も学んできた。街に出て庶民の暮らしに触れられるまひろとは違う方法で、倫子も世界を知ろうとし、実際のところ世故に長けてもいるのだ。ほしいもの(道長という婿)を手に入れる賢さが彼女の一番の武器かもしれない。 まひろとの関係は変わっていかざるを得ないが、妻として、母としての新たな魅力をまとった倫子の今後に期待したい。
池沢奈々見