難関校の入試問題「どうして月がついてくるのか」を解ける子になるために必要な幼少期の「感覚の記憶」
数年前、ある難関校で「どうして月がついてくるのか」というテーマの入試問題が出されたことがあります。確かに、夜道を歩きながら月を眺めていると、どこまでも月がついてくるように感じますが、それは月が地球から遠くにあるために起こる目の錯覚です。 この問題は人と物体の距離と視野について問うていますが、このような問題に出合ったときに「そうそう、お月様ってついてくるよね」という実感があるかないかが、正解への糸口を見つけるための非常に大きな差になります。
「感覚の記憶」が理系力には欠かせない
親子で夜空を見上げるだけでも、雲の流れを追ってみるだけでも、そのときに子どもが感じた「へ~」「きれいだな」「不思議だな」という感覚が、子どもの中に経験として残っていきます。 それは、植物、生物、天文などの自然分野に限りません。すべり台から泥団子を落とすのと、紙を落とすのでは、落ち方がぜんぜん違いますね。「軽いものを落とすとフワフワしてなかなか地面に落ちないんだな」という感覚を知っていると、高学年になって物理的な勉強が始まったときに、「あのことか!」と、経験と知識がつながります。 小さいうちはわからなくても、本格的な勉強が必要になったときにつながれば儲けものです。「感覚の記憶」があればあるほど、とくに理系の勉強では後につながっていきます。
重量、温度、質感の豊かな体験を
親御さんに実践してほしいのは、いろいろなものをお子さんに触らせる経験を増やすということです。難しく考えず、家にある物でもけっこうです。子どもからすると、お父さんの時計は手にズシッとくるでしょう。辞書などの分厚い書籍もかなりのインパクトがあると思います。めったに触ることなどできない金の延べ棒を、持ち上げることができる地方の郷土館もあると聞きます。 手に持って「重っ!」「めっちゃ軽い」とびっくりするような体験をすると、「これってあれより重いかな」というふうに、比べる楽しみが生まれます。 真夏の公園のベンチに座ろうとしたら、木製の座面は大丈夫だけど、鉄製の背もたれが熱すぎて思わず「熱っ!」と叫んでしまったとします。そのときは「なぜ?」「びっくりしたな~」で終わっても、大きくなって熱の伝わり方を学んだとき、素材によって温度が違うことがわかり、やがてその謎は解明されるでしょう。 スチール缶とアルミ缶では、同じ大きさでも重さが違います。身の回りのいろんな物体に触れてみることで、経験とともに「感覚の記憶」がどんどん蓄積されていくのです。 1回目の記事では、数の「量感」についてお話ししましたが、ここでお伝えした「感覚の記憶」も、理系の力を育てるための重要な要素になります。 お子さんがまだ小さいという方は、感覚に訴えかけるような体験をたくさんさせていきましょう。お子さんがすでに就学している場合も、もう遅いということはありません。親子で楽しみながら機会を増やしていってほしいと思います。
西村則康,辻義夫